全てを包み込む微笑み

暑い。



「田代ー!俺のサッカー姿見に来いよ!」

「やだ」

「無理!強制!」

「…はぁ」



球技大会。今日の立海ではそんな行事が行われている。担任のど忘れのせいでそれぞれの種目のメンバーが決定したのはつい一昨日で、私はやる気なんて微塵もないから適当に実行委員になっておいた。実行委員と言えば聞こえは面倒くさそうだが、それになれば種目には参加しなくていいという特典がある。その代わり審判をしなければならないが。

で、今は私が審判を務めることになっている試合を教室で待機しているところだ。丸井君はサッカーをしに行く為にたった今出て行った。



「ほんとになんも出んの?」

「出ない。面倒」

「ま、俺も全部補欠じゃけど」

「ということは、仁王君も何も出ないのか」

「うん。だから田代といる」

「うわ」



教室に残っているのは私と仁王君を含め、後男女合わせても5人ほどのみ。全員やる気がなさそうなメンバーだ。勿論名前は知らない。



「田代、どこの試合の審判すると?」

「2Aと2Cの男子クリケット、1Eと1Fの男子サッカーの2試合だ」

「え、それだけ?それで田代の球技大会終わり?」

「しいて言えば男子じゃなくて女子の審判をしたかった。まぁどちらでもさほど変わりはないが」

「いやいや、そういうことじゃないじゃろ」



はて、一体仁王君はこの球技大会にどんな期待を抱いているのだろうか。仁王君も補欠だけで何も出ないというのに。そう思いながらチラリと視線を送ると、仁王君は若干困ったように弁解してきた。



「俺は出んのはめんどいけど見るのは好きじゃ。応援とか行かないんか?」

「別に、興味無い」

「だーめ。田代、今日1日俺と一緒に行動するぜよ」

「仁王君は意外とよく動くからやだ。面倒くさい」

「やだ!」



どうしてこうもテニス部にはわがままばかりが揃っているんだ、と本日何度目になるかわからない溜息を吐いたところで、まだ時間があるというのに結局仁王君に腕を引かれ教室を出るハメになった。散々だ。



「何処に行くんだ」

「とりあえずブンのサッカー見に行くなり。多分女子ばっかでうるさいじゃろうけど」

「やだ」

「大丈夫、とっておきの場所があるぜよ」



仁王君はそう言うと私に向かってウィンクをしてきた。え、そんなキャラだったか?…まぁいいや今更抵抗するのも面倒くさい。仁王君が引きずってくれてる事だし、このまま流れに身を任せよう。…あ、そういえば私、日焼け止め塗って無い。果たして運動部の男子がいちいち気にしてるかは微妙なラインだが、聞くだけ聞いてみるかと思い私は彼に日焼け止めを持っているか問いかけてみた。すると意外や意外、仁王君はポケットから小さいサイズのそれを出して、そのまま手渡してきた。



「意外と持ってるんだな」

「俺、塗んなきゃ皮剥けて悲惨なことになるんじゃ。顔ヒリヒリするし」

「へぇ」



そんな他愛もない会話を交わしつつ、仁王君はサッカーが行われているグラウンドへは行かずに、1階の理科準備室に足を運んだ。



「…そういうことか」

「うん」



理科準備室の窓からはちょうどグラウンド見える。とっておきの場所、とは此処のことか。確かに少しホコリ臭いけど静かだし良い。陽射しが結構当たるからどっちにしろ日焼け止めは必須だが。



「あ、ブン気付いたぜよ」



そこで目ざとくも丸井君は私達の存在に気付き、大声で私達の名前を呼んで手を振って来た。折角目立たないようにしているというのに苦労が皆無じゃないか。丸井君なんて負けてしまえ。
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