「弦一郎、その辺にしておけ」

「む、蓮二…しかしだな!」

「田代、無駄な体力を使わせてしまってすまないな」



本当だ、と言い返しそうになったのを、一応私にも原因はあるようなのでここは抑えておく。でも、柳君はそんな私の思惑にも気付いたのか少し困ったように眉を下げて笑った。彼は何も悪くない、悪いのはこの真田君とやらだ。彼は一体なんなんだ、全てにおいて化け物並じゃないか。

心の中でそんな愚痴を延々と繰り返していると、これまたうるさい人達がわらわらとこちらに集まってきた。早くお弁当を食べたいというのに、本当にこの人達は厄介で迷惑でしかない。



「田代おっつかれー!俺としてはもうちょっと楽しみたかったけど、仕方ないねー」

「君は私をなんだと思ってる」

「え?オモチャ」



…幸村君はスルーしよう。

その時、ふとこの人達に目を向けると、名前は知らないが顔はなんとなく見た事がある黒豆君がいた。確か1番最初に見た時、その容姿に結構な衝撃を受けたからこうやって記憶に残っているのだろう。



「晴香先輩、大丈夫っすか!?」

「あ、あぁ」



メンバーの中には切原君も当たり間のように居座っている。2年の中に1人だけ1年生でも堂々と佇むその根性、さすがだ切原君。だが、腰に飛びついてくるのはいい加減やめてほしい。痛い。



「災難じゃったのう」

「本当に」

「お前よく真田から逃げ切れたなー」

「多分一生分の脚力を駆使した」

「お前大丈夫か?さっき買ったやつだけど、まだ飲んでねぇし良かったらやるよ」



仁王君と丸井君が茶化したように接してくる中、黒豆君はただ1人、本気で心配しながら私に紙パックジュースを手渡して来てくれた。その紳士すぎる態度に思わず彼の顔を凝視する。



「お、おい…?」

「良かったら名前を教えてくれないか」

「お、俺か?I組のジャッカル桑原だけど…」

「桑原君、か。ありがとう、君の事は一生忘れない」

「別に俺死なねぇぞ!?」

「安心しろジャッカル、田代が自ら名前を聞くなど滅多にないことだ。むしろお前が初めての例だ。これは喜んでいいんだぞ」



私の気持ちを代弁して柳君がそう言ってくれたから、私はとりあえず桑原君からもらったこのジュースに口を付ける。飲む。美味しい。



「…田代さん」



そんな風に少しの至福の時を噛みしめていると、どこか申し訳なさそうに顔を俯かせた柳生君が話しかけてきた。普通なら無視してもいい所だが、その表情を見て一度ストローから口を離す。



「色々とご迷惑をかけてしまったことは謝ります、すみません。ですが貴方の生活態度はやはり改めるべきです!先程真田君が言ったように、なんですかそのガバッと開いたシャツのボタンは!」

「あぁ、入学時より体が成長して第1ボタンまで閉めると首がきついんだ」

「…じゃあ、そのスカート丈は!」

「実はこれ、一度も折っていないんだ。確か…制服売り場のお姉さんが、制服スカートはこれくらいが可愛いのよ!とかなんとか言ってた」

「あはは、田代女口調似合わない!」



幸村君の茶々は流すとして、私は真実を言ったまでなのだがそうすると何故か柳生君は絶句してしまった。真田君もなぜか全身震えてる。桑原君は困った素振りを見せているし、他の者は肩を震わせて笑いを堪えているし。



「あの、」

「…なんですか?」

「ご飯食べに戻ってもいいか」

「いい加減にせんか田代ーー!!!」



一体、私が何をしたのだろう。
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