「あ、蓮二だー。トイレ行くの?俺も行くー」

「あぁ、精市か」



昼食をとり終えトイレに向かおうと教室を出た矢先、ちょうど廊下にいた精市と遭遇した。そのまま流れで共に過ごす事になったのだが、凄まじい音が後方から聞こえるのは…幻聴ではないだろう。



「ねぇ蓮二、なんか凄い真田の声がするんだけど」

「奇遇だな、俺もだ」

「キエエエェエッ!!!」



部活の時以外はあまりこの叫び声は出さないというのに珍しいな、よっぽど何か癇に触る事があったのだろう。弦一郎の奇声とも言える叫び声を聞いて俺はそう推測し、ゆっくりと精市と共に後ろを振り返った。



「、どけてくれ!」

「あ、田代だ!おいでー!」

「無理だ!」



するとそこには意外や意外、田代と弦一郎による鬼ごっこが繰り広げられていた。精市はすぐに彼女に飛びつこうとしたが、それは容易く交わされて、また再び走り出す。弦一郎は速すぎて走って行く姿があまり見えなかった。そんな2人の様子を見て勿論楽しそうに騒ぎ出した精市は、俺の制服を引っ張りながら笑顔で面倒な事を提案し始めた。



「ねぇねぇ、面白そうじゃない?俺達も参戦しとこうよ」

「俺は遠慮しておく」

「だって田代と真田今まで接点なかったのに、急に鬼ごっことか始めちゃってるんだよ?しかもあの真田の叫び声!絶対なんかあったんだよ!」

「まぁ、でなければ女生徒にあんな本気で挑むのは有り得ないだろうな」

「様子見に行こうよー蓮二ー」

「…はぁ」



精市の言い出したらきかないワガママに溜息を吐きつつも、仕方ないから2人が向かった方向に本気の半分も出してない速度で走り出す。弦一郎、なんて体力の無駄な事をやってくれているんだ。



「概ね田代のなーんも悪気無い天然発言に真田がキレた、って感じだと思うんだけど、蓮二はどう思う?」

「同意だな」

「だよね!」



むしろそれしか有り得ないだろう。田代のようなタイプは精市や仁王からしたら面白いだろうが、弦一郎相手だと逆鱗に触れる事間違いなしだ。非常に扱いにくい。と、なんだかんだデータ分析をし始めてしまっている自分が憎い。



「あれ、屋上だ。2人共ここにいるのかな?」

「恐らくな」



そうして俺と精市が2人を追いかけて辿り着いた場所は、屋上へ続く階段だった。屋上へのドアが無造作に開けられている所から、2人は98%ここにいると予測して間違いないだろう。

1歩1歩階段を上り、開いているドアから顔を覗かせる。



「…うわ、あれ田代死ぬんじゃない?」

「助けるか?」

「んー、もうちょっと見てみよ」

「そう言うと思った」



俺達の目には、気が立った真田が田代に詰め寄っているという光景が映し出された。屋上で昼食をとっていた他の一般生徒は2人の雰囲気に完全に怯え、それぞれ隅に寄ってその光景を凝視している。



「い、いた…!」

「真田…短気すぎぜよ…!」

「真田先輩ぃいいぃ!!晴香先輩になーにやってんすかぁー!!」

「っつーか何で俺まで…」

「真田君…」



俺達がドアでしばらく2人の様子を見ていると、息を荒げた丸井、仁王、切原、ジャッカル、柳生が現われた。切原は田代の為ならばとこの騒動に自ら参加し、ジャッカルは…完全に巻き込まれたのだろう。そうなると柳生がどうしてここにいるのかはいまいちわからないな、データ不足だ。あぁ、丸井と仁王はクラスメイトだからな、言うまでも無い。



「柳生、なぜお前がここに?」

「…実は」



俺が思った疑問をそのままぶつけると、柳生は朝あったことから今までの全てを要約して話し始めた。聞き終えた感想は、ただ一言言うならば、弦一郎に話したのはミスだったということだ。



「田代ー頑張れー!」



精市の声援に田代はあからさまに顔を顰めた。…これではあまりにも気の毒だな。そろそろ行くとするか。
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