「ほう、そんな事があったのか」

「大変なんですよ…全く、女性があんな態度を取るとは言語道断!淑女の風上にも置けませんね」

「…ふむ」



HRが終わり、朝あった田代晴香さんとの出来事を同じクラスの真田君に話していると、真田君は厳格な表情で顎に手を当て、何かを考え始めました。一体何を考えているのか、と軽く首を傾げていると、彼はその締まりのある表情を私に向け、妙に誇らしげにこう言ってきました。



「よし、その田代とやらは俺が制裁してやろう」

「え?」

「心配するな、この俺にかかれば女1人など朝飯前だわ」

「いやですが真田君、なんの関係も無い貴方に任せるわけには」

「そう言うな、問題児を更生するのは何もお前だけの仕事では無いだろう」

「真田君…!」



こ、こんな正義を持った人が今でもいるなんて…!私は感動しましたよ真田君!仁王君、彼がいるのならテニス部への入部を前向きに考えても良いかもしれません。今年同じクラスになって初めて彼の良さに気付きました!そんな予想外の出来事に思わず潤んだ瞳を拭えば、真田君は急に勢いよく立ち上がり、ドアに向かって歩き始めました。トイレにでも行くのでしょうか、そう予想を立てながら彼の勇ましい背中を見送っていると、彼は不意に私に振り向き「行くぞ柳生」と言いました。…え!?



「も、もしかして今から言いに行くのですか!?」

「ちょうど休み時間に入っただろう、今行かなくていつ行くというのだ!」

「…そうですね、行きましょう!」



これまた予想外の事に一瞬驚きましたが、考えてみれば確かに絶好の機会と言うに相応しいもの。田代さん、女性1人に対して男2人で行くのは気が引けますが、これも貴方を更生するためです、どうか気を立てずに!



***



「田代晴香はいるか!」



バンッ!、と勢いよく開かれたドアに、随分と渋い声で再生された自分の名前。私は食べていたおかずを吹き出しそうになるのを堪えて、とりあえず声がした方に目を向けた。するとそこには、なんだか見た事がある老け顔君と、朝に色々あったばかりの柳生君がいた。



「真田君、彼女が…」

「お前か、田代晴香は!」

「え」



何だろう、これは柳生君の復讐だろうか?席に座って昼食をとる私に、立ちはだかる真田君とやらとその一歩後ろにいる柳生君。丸井君と仁王君も突然の事に目を見開いている。いやむしろクラス中が注目している。なんて面倒臭い。



「風紀を乱すとはどういうことだ!」

「…」

「校門に入ったら自転車からは降りる、これは基本だろうが!他の生徒にぶつかったらどうする!」



あ、それで柳生君は怒っていたのか。今更納得した、というのを口に出すほど私も馬鹿じゃないので、自分の中で勝手に解決させる。



「それにその緩んだシャツのボタン、立て!」

「あー…」

「スカートも規定より短い!何を考えている!」

「えーっと…」



やけに興奮した様子の真田君は、私の身なりを見て吠えるようにそう叱った。何を考えている、と言われても…ここは正直に言っとくべきなのだろうか。…言っとくべきみたいだな、どうやら私の言葉を待っているようだし。



「何も考えていないが」

「キエエエェエエェッ!!!」



だから、私が思っていた事をそのまま伝えると、なんと真田君は発狂しだした。柳生君が慌てて真田君!、と彼の暴走を止めようとするが、その勢いは止まる事を知らない。柳生君、随分厄介な事をしてくれたな。



「丸井君、お弁当食べたら怒るからな」

「え、ちょ、大丈夫かよ田代!」

「とりあえず、逃げる」

「待たんかーー!!!」



顔を般若にして怒っている真田君の隙をついて、私は一目散に教室から飛び出した。全力疾走してみるものの彼の脚力は顔と同じく人並み外れており、凄まじい足音が耳に入る。私、今日が命日になるのだろうか?
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