「なぁ、田代」

「…」

「なぁ!なぁなぁなぁ!」

「うるさい」



最後の授業、英語。教科担当が怖いっちゅーことで有名なんにも関わらず、ブン太は大声でしつこく田代に話しかけとる。自分の声が教室中に響き渡ってるの気付いてないのかのう…先生もちらちら見とるし。あーあー俺知らん。後ろ向いて俺も巻き込まれたら嫌だから、今回は聞くだけにしておく。



「まだ怒ってんのかよ」

「あれから寝付けなくなった。丸井君のせいだ」

「授業中に寝るお前が悪いんだろぃ?」

「君もよく寝ている癖に何を言う」

「俺は別。とにかくんなピリピリすんなって!」

「やだ」

「わがまま!」

「どっちがだ!」



片方は冷静に、もう片方はうるさく。さっきの寝息同様、非対称な2人の喧嘩はどんどんヒートアップしていく。



「田代さん、丸井君?」



そして。



「放課後、課題を出すから授業終了後取りにいらっしゃい」

「先生、私は何も」

「あら口答え?」

「イエナニモ」



とうとう先生の堪忍袋の緒が切れた。あれは相当怒っとる、目が笑っとらん。で、それを境に2人からは言葉1つも聞こえんくなった(これはこれでつまらん)。

にしても、放課後2人が居残りねぇ…是非実況中継しておきたいとこじゃけど、生憎俺にも部活がある。観察日記は今日のところはお終いじゃ。明日ブン太が何かしら言ってくるじゃろうし、それを楽しみに待つとするかの。



***



「なんで俺がお前と2人でこんなことになってんだよぃ」

「私が聞きたい」



くっそ、こんの無愛想女…!そもそもこいつがいつまでもぷりぷり怒ってるから悪いんだろ、俺なんも悪くねぇし。ってさっき部活行く時に迎えに来たジャッカルに愚痴ったら、自己中すぎだ、って言われた。うるせーっつーの。

あーあー部活も遅刻だし田代と2人だし課題訳わかんねぇし…田代と2人だし?2人だぜ!?そのあまりにも酷な現実を突き付けられた俺は、田代にも聞こえるようにわざとらしく大きな溜息を吐いた。



「早く解答見せろよ」

「やだ」

「お前マジわがまま!」

「だからどっちがだ」



いっつも寝てるくせに、何故か着々と答えを埋めていってる田代。見ようとしても体で遮られるし、ケチだなぁこいつ。

しばらくして、とうとう田代は無反応になっちまった上に、問題はやっぱりわかんねぇし、俺は諦めて机に顎を乗せて無気力モードに入った。カリカリ、とシャーペンの音だけが響く。あぁー腹減ったー。



「出来た」

「早っ!?」

「帰る」

「え、お前…マジで?」



なんだかんだ見せてくれることを期待してたから、いそいそと帰り支度を始める田代をガン見してそう言えば、田代は一度手を止めて俺に向き合ってきた。…なんつーか、吸い込まれる、っつーの?とにかく見つめ合う事数十秒後、田代は呆れたように目を伏せて、俺の課題の上に自分の課題を重ねてきた。



「え、これって」

「ちゃんと私の分も出しておいてくれ」

「お前…!」

「じゃ」



それだけを吐き捨てて、颯爽とドアから出て行く田代。あいつ…もしかしてなんだかんだ良い奴?

とりあえず俺はその綺麗な字で書かれた課題を丸写しし始めた。そのおかげか自力でやったら相当な時間がかかりそうなプリントはものの10分ぐらいで終わって、部活にもさほど遅れる事無く、早々と参加する事が出来た。…今だけは礼言ってやるよ、サンキュ、田代。
 4/5 

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