「あれが俺の倒したい奴らの1人ッス」 「…倒したい奴ら?」 「朝言ったじゃないッスか!」 「…あぁ」 柳君が屋上から出て行くなり、ふいに切原君はしかめっ面でそう呟いた。最初は何の事だと思ったが、頭の片隅の記憶を引っ張り出して何とか思い出す。そういえば「アイツらを倒しにいくッス!」とかなんとか言っていたか、特に気にかけていなかったから思い出すのに時間がかかった。 「俺、アイツら倒して、ナンバー1になるんス」 「ナンバー、1」 「その為に今日までめっちゃ練習してきたんッスよ!」 その練習成果が出ているかどうかは、実際に切原君と彼らの戦いを見なければ何とも言えない(見に行くつもりは無い)。でも、ただ1つ思ったのは、最初に会ったあの時よりずっと、切原君の目は強くなっている。 「君がどんな理由で何があってそんなに彼らを倒したいのか、私は知らない」 「…ですよね」 「でも」 基本こういったことに干渉することは無いが、なぜか切原君を見てるとこんな言葉を言いたくなった。 「負けるな」 うん。スッキリ。私は何故か固まってる切原君を余所目にさっさと残りのお弁当を食べ始めた。お母さん、煮物をお弁当にいれるのはやめてほしいんだが。とそんな愚痴を心の中で吐いていると、まさかの 「晴香せんぱあぁあぁい!!」 「は」 抱きついてきた、しかも真っ正面から。果たしてこの状況が理解できるだろうか。 「切原君、ふざけるな」 「えぇ!?」 お弁当が床に落ちてしまったこの状況を。かーなーり遺憾だ。どさくさに紛れて胸に顔を埋めながら上目遣いをかましてくる切原君は、きっと私に喧嘩を売ってるんだと思う。 「お弁当どうしてくれるんだ」 「あ、ふざけんなってそっちのことッスか。そんなん俺のパン何個かあげますよ!」 「じゃあ3つ」 「半分も!?」 当たり前だ、まだそこまで食べていなかったんだからお腹が空いてるんだ。切原君が腰に抱きついていることは気にせず、私は彼の足元にあるカレーパンをまず頂戴してそのまま食べ始めた。いつになったら離れてくれるんだろうと若干思ったが、それよりもお腹が満たされればどーでもいいか。 「マジで、絶対に潰してくるッス!」 「あぁ」 「…先輩。」 「ん?」 ムシャムシャとカレーパンを食べながら、目線を下げる。 「試合、見に来てよ!」 ───その言葉を理解するのに用いた時間は約15秒、私は即座に拒否しようとしたもののどうやら切原君はその沈黙を肯定と受け止めてしまったようで、「じゃあ帰り迎えに行きます!」と言った後屋上から去っていってしまった。残されたのは、ひっくり返ったお弁当に、律儀にも彼が置いてってくれたメロンパンとクリームパン、そしてカレーパンを食べかけの私。 放課後、切原君が来る前にさっさと帰ろうとしたがその計画も虚しく、私は彼に強制的に連行されてしまった。着いた先はテニスコート、見渡す限りたくさんの人。正直気が遠くなった。今日を人生最大の厄日に、改めて認定しよう。 |