寂しさなんて蹴飛ばして

この人達と離れなければいけない1年間は、多分、俺の中の100年分くらいに相当すると思う。



「───回、立海大附属中等部卒業式を始めます。というアナウンスが入るので、此処で皆さんは起立して…」



卒業式練習なんて去年はただただ面倒臭かったし、実際体育館内にも寝てる奴らは大量にいるけど、俺にとって今年は訳が違う。先輩達が、いなくなるんだ。

先輩達は皆このまま高等部に行く。だから俺だって来年にはまた同じ場所に通えるっつーのに、その空白の1年をどうも待てる気がしない。立海をもっかい全国優勝に導かなきゃいけねーのに、俺が部長になった新生テニス部で頑張んなきゃいけねーのに、今は不安ばっかがぐるぐる渦巻いてる。卒業って、こんな寂しいもんだったっけ。



「(…先輩達のバカ。)」



人の隙間から見える晴香先輩の頭に向かって心の中でそう呟くと、先輩は寝ていたのか首をガクンッと揺らした。それを見て1人で思わず噴き出しそうになったけど、なんとか堪えて。

なんで俺だけ年齢が違うのか。そんな疑問は呆れるほど繰り返して来たし、その度に自分の中で納得させてきたつもりだった。でも、所詮つもりでしかなかったんだなぁって今になって気付く。なんで、なんで、なんで、って、その繰り返し。



「っ?」



と、その時。ずっと見つめていたその頭がふいに俺の方を振り向いてきた。突然の事に体が強張って、やる気のない眠たそうな顔に吸い込まれるように視線が向く。こっちを振り向いている晴香先輩の視線につられて、先輩よりも後ろの席に座ってる仁王先輩と丸井先輩も振り向いてきた。更に強張る俺の体。

でもその直後、先輩達は眉毛を下げて困ったように笑った。なんて情けない顔をしているんだ、と、いつものあの淡々とした声が頭の中で勝手に再生された。そのせいで一気に鼻の奥がツウンっとなった俺は、その事を悟られないようにするためにガバッと下を向いた。

どんだけ嫌でもこれだけは変わらない。

先輩達は、卒業しちまうんだ。
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