お父さんとお母さんと食事をした後に強制的に連れてこられ、気分はかなり渋々だった初詣だが、やはり食に勝るものはなく。数々の出店を目の前にするなり私のテンションは一気に上がった。この人混みは嫌いだが、出店特有の美味しい食べ物にはなんの非も無い。料亭でもあれほどの量を食べたというのに未だに空きがある胃袋には我ながら驚くが、食べたいものが目の前にあるのならそんな事も関係ない。 「先輩、おでん超美味いっすよ!」 「クレープが食べたい」 「いーやたこ焼きだろぃ!」 「おまんら食い過ぎぜよ、見てるこっちが胸焼けするなり…ウプッ」 呆れている他の人達は放っておき、私は切原君、丸井君とあちらこちらの出店を歩き回った。自分で持てない分は、切原君は柳生君、丸井君は桑原君、私は仁王君に持ってもらっている。後の幸村君、真田君、柳君は自分の分だけを手に持っていて、こういう所の食べ物も意外に食べるんだなぁと密かに思った。もっとも、真田君に至っては完全に興味本位のようだが。 「おい田代、赤也、ここは間を取ってふかし芋にしよーぜぃ!」 「え、なんすかそれ!去年までは無かったっすよね!行きましょ行きましょー!」 「お前らまだ食うのかよ…」 「待て、まだあっちにお好み焼きが、っ?」 桑原君の言葉を軽く流して(すまない桑原君)どんどん先に行こうとする2人の背中に手を伸ばすと、途端足に痛みの衝撃が走った。あまりに突然な事態に、一瞬持っていたものを手放してその場にうずくまりそうになったが、それはなんとかせずに持ち堪えた。しかし、痛い。 「田代さん、どうしました?」 「恐らく靴擦れだろう。痛むか?」 「痛い」 「慣れてない癖にたくさん歩き回るからだろ。そこの石段座って。仁王、先に行ったあの馬鹿2人に食べ物買ったら此処まで戻ってくるよう連絡しといて」 「了解ナリ」 幸村君の迅速な指示でとりあえず私は石段に座らされ、目の前には険しい顔をした幸村君が跪き、これまたスムーズな手つきで草履と足袋を脱がされた。見るとそこには皮がベロンとめくれあがっている悲惨な足があって、その様には真田君でさえもが眉を顰めている。 「なんで今まで痛みを感じなかったのかが不思議で仕方ないよ。誰か絆創膏持ってる?」 「えぇ、ありますよ。ガーゼもありますのでその上から貼り付けてはどうでしょうか」 柳生君の指示に従う事にしたらしい幸村君は絆創膏とガーゼを彼から受け取り、そのまま傷口に貼り付けてくれた。正直結構痛かったけどそこは我慢だ。再び足袋と草履を履かせてくれた幸村君の手を借り立ち上がると、だいぶ引いてはいるがそれでもやはり少し傷口は痛んだ。でもまぁ、歩けないほどじゃない。 「家に帰ったらちゃんと処置しなさい」 「わかった」 「晴香先輩大丈夫っすかー!?」 「食いもんいっぱい買って来たからなーよしよし!」 「早く食べたい」 柳君の言いつけの後にすぐ戻って来た2人を見て、他の人は呆れたように笑った。 そして私達は、近くにあったゴミ箱に食べ終わった容器を捨ててからまた歩き出し、お正月の雰囲気に呑まれたように賑やかな時間を過ごした。 「田代、それ一口欲しいぜよ」 「やだ」 「ケチんぼ!!」 着物は動きにくいし足も痛いけど、新年のスタートをこの人達と切れたなら、少なくとも中吉以上の1年は過ごせそうだなぁと思った。 |