「うおぉおおおぉ晴香先輩ぃいいぃ!!超可愛いっすううぅうう!!!」

「田代パパママグッジョブー!!」

「この子来たがらないんだものー、だから無理矢理連れて来ちゃったの!」

「晴香の事頼むでぇー」



田代の電話を受けてからすぐに待ち合わせの賽銭の場所まで来ると、そこには親御さんに挟まれてむくれっ面で立っている、着物姿の田代がいた。いつもとは違う田代の姿に赤也とブン太と仁王は一目散に駆け寄って、ぎゅうぎゅうと見てて鬱陶しいくらい抱き着いている。他の奴らも感心したように田代を見ていて、…なんだこの状況。



「これは良いものが見れたな、精市」

「…あいつ日本人顔だしね。似合ってはいるけど」



ただ、そのむくれっ面で折角の着物が台無しだ。電話に出た時から不機嫌なのは一瞬でわかったけど、まさかここまでとは。それでも何だかんだ親の言う事を聞いて電話をかけてくるあたりが可愛いけど。だから俺は引っ付いている3人を押し退け、面倒臭そうに俺を見上げてきた田代の前に立ちはだかった。



「折角似合ってんだからそんな顔するなよ」

「だってこれ、動きずらい」

「それくらい俺が、…俺達がサポートするから。参拝はもうしたの?」

「まだ」

「じゃあ行くよ」



そして俺達は田代の親御さんに別れを告げて、まずは賽銭をする為に各々財布から小銭を取り出し、投げ入れた。隣で目を閉じて手を合わせている田代が何を願っているのかが気になってしまったのは、多分、気の迷いだ。



「じゃあ次はおみくじじゃのう」

「あ、そーえば聞いて下さいよ先輩!俺今年サンタさんいっぱい来たんっすよ!」

「…そうか、それは良かったな」



おみくじを引く場所に向かっている途中で、そう目を輝かせて喋り出した赤也に、俺達は勿論目を合わせて笑った。あの寝惚けた赤也はいつ思い出しても傑作だと思う。



「うっわー、此処もまた混んでんなぁ」

「なんせ今日は1日ですからね。仕方ないです、並びましょう」



辿り着いたおみくじ場はやっぱりこれまでと同じように混んでいて、これ以上人が並んでしまう前に俺達は足早に最後尾についた。寒がりな仁王は持って来たカイロを手の中でシャカシャカと暖めて、その行動に対し真田が女々しいぞ仁王!とか叱り出してうるさかったから、足を踏んで黙らせといた。



「あ、ていうか」

「なんだよぃ田代」

「あけましておめでとう」



と、その時。俺達の間でもするのを忘れていた挨拶を、田代は淡々と言い放った後に頭をちょこん、と下げた。そんな田代につられて俺達も思い出したように、慌てて同じ行動をする。そうだ、すっかり忘れてた。



「今年も更なる飛躍を目指した良い年にするぞ!」

「真田暑苦しいぜよー。まぁ、変わらずよろしく頼むきに」

「新年の挨拶を忘れるとは迂闊だったな」



真田、仁王、蓮二の言葉に全員が苦笑しながら頷き、そこで俺達の番がようやく回って来た。赤也やブン太は妙にガサガサと探ってみたり、田代や蓮二は1番上にあったのをさっさと取ったり、おみくじの引き方も人それぞれだ。引き終わった奴から順にそこを離れ、人気がまだ少ない場所へ移動する。



「じゃあ、せーので開くっすよ!せーのっ!」



赤也の元気な掛け声で開封するなり、ここでもまた人それぞれな反応の声が耳に入った。ちなみに俺は、あ、大吉だ。ラッキー。

自分のおみくじに書かれている文章を読んでから他の奴らの結果を聞いてみると、仁王と蓮二は俺と同じ大吉、赤也は中吉、柳生は吉、ブン太は小吉、ジャッカルは末吉、真田は…まさかの凶だった。まぁオイシイとこ持ってけたし良いんじゃない、と適当に励ましておいて、最後に田代のおみくじを覗き込む。



「ふーん、中吉ね」

「晴香先輩おそろ!俺とおそろっすよ!」

「そうだな」



早々と縛り付けるかと思いきや意外にも熟読している田代の横から、俺もその内容を何気なく見た。別に隠してないし遠慮する必要はない。でも、ある項目の内容を見て、若干動揺した。



「この辺一帯が空いていますね。皆さん縛りましょう」

「末吉ってなんかパッとしねぇな…凶よりはまだいいけどよ」

「俺だって好きで引いたわけではない!」



それでもその動揺を悟られるわけにはいかないから、柳生の提案に便乗するフリをしてすぐに田代の側から離れる。全員ちゃんと縛り付けて、次は赤也とブン太、それに田代も待ちわびていたであろう出店を回る時だ。俺は明らかに浮かれている3人を前にして、静かに笑った。



「何か動揺していたみたいだが、そんなにあいつのおみくじの内容がおかしかったのか?」

「だから何でお前は気付くのさ」

「あいつの恋愛欄は“来る、驚くことあり”だったな」

「わかってるくせに言うなよ」



油断した頃に来る奴だとはわかっていたけど、こうも的確に当てられると腹が立つ。…やっぱり、驚くよな。



「ってあぁーもう!蓮二のせいで変な事考えた」

「そういう精市の恋愛欄はなんだったんだ?」

「絶対教えない」



一瞬よぎった自分のありえない思考を掻き消し、俺は半ば八つ当たりの勢いで蓮二の肩を軽く殴った。それでも楽しそうにそんな事を問い返してきた蓮二の質問になんか、絶対何があっても答えない。…“根気強く行け、その人を逃すな”って、なんだよそれ。
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