そして、翌日。 「よく似合っているぞ、田代」 「笑いを堪えながら言うな」 約束通り、23時15分ピッタリに柳君は私の家まで迎えに来た。完全に浮かれているお母さんに玄関まで見送りをされ、手には切原君へのプレゼントとしてケーキを持たされ、私よりもお母さんの方がうんとクリスマス気分を味わっている。 本当はこんな格好で外を出歩くのは嫌だったのだが、まさかこの寒い中公園で生着替えをするわけにもいくまい。ここらへんは住宅街なゆえにこの時間だともう人通りはあまりなく、クリスマスだから家でパーティーをしているところも多い。だからその点はどうでもいいのだが…やはり、なんともいえない気持ちだ。 「しかしやはりサイズが少し大きかったようだな」 「おかげで中に着込めたから別に良い。逆にこの服の上にコートを着ると不釣り合い極まりない」 「それはPコートを着てる俺への嫌味か?」 ちょっとした仕返しを試みたものの、どうやら柳君には全て見透かされてしまうようだ。もう無駄な抵抗はやめよう。 「田代は恋の経験があるのか」 グダグダといつも通り他愛もない話をしながら歩いていると、急に柳君はそんな質問を投げかけてきた。こい、鯉、恋?いやいや彼が私にそんな話題を振る訳がないか、そう思ったので鯉の方で解釈し、返事をする為口を開く。 「あるぞ、去年の夏に一度だけ」 「…それは本当か?」 「あぁ、でも中々独特な味で私はあまり好まないな。普通に鮭とかの方が好きだ」 「…そうだな、鯉は俺もあまり好きではない。そうだな、鯉はな、そうだな」 が、私の予想に反し柳君はそれはそれは呆れたような、投げやりな口調で相槌を打ってきた。そっちから質問しといてなんだ、と若干不服に思ったが、すぐに話題を変えられてしまったのでその不満は口には出さなかった。 「お、来たきた!うわー田代ちょー可愛いじゃん!」 「田代ー、写メ撮るきにー」 「嫌だ」 そうこうしている間に待ち合わせ場所の公園まで来て、そこにはもう私と柳君以外の皆が集まっていた。時間は23時24分。こういう時だけ無駄に集まりが良いな、と常々思う。 とりあえず私達は公園の中央にある木で出来た長椅子に座り、各々持ち寄ったプレゼントを机の上に広げた。丸井君はお菓子の詰め合わせ、仁王君は新作のゲーム、桑原君は切原君の好きな歌手のCD、柳生君は参考書、柳君は定期入れ、真田君は真田の書(激しくいらない)、幸村君はグリップテープ。なんとも個性溢れる品々だ。 「このケーキ田代が作ったのか?」 「いや、お母さんが持ってけって」 「お前お母さんが用意してくれなきゃ持って来なかっただろ」 桑原君の質問に素直に答えれば、幸村君に痛い所を刺された。あまりにも図星だったので私はその言葉をスルーし、柳君が持って来た大きな白い袋(サンタがよく背負っているアレだ)に皆のプレゼントを詰め始めた。隣にいる仁王君、向かいに座ってる丸井君も同じように詰めている。 「田代のケーキは手持ちの方が良いんじゃなか?」 「そうですね、折角のデコレーションが崩れてしまいます」 「いいなー、田代ママのケーキ俺も食いてー」 仁王君の提案がもっともだったので、私は涎を垂らして言い寄ってくる丸井君を追い払い、慎重にそのケーキの箱を両手で持った。サンタ袋は勿論真田君が持ち、いざ出発だ。 「うわっ」 「っと、危ないな。俺ケーキ持つからお前ちゃんと足元見て歩いてなよ」 「ごめん」 しかしまさかの道端の石に躓いてしまい、見かねた幸村君は私を支えた後に代わりにケーキを持ってくれた。なんという醜態だ、恥ずかしい。でもケーキばかりに気を取られてしまうのは確かなので、ここは幸村君の親切心に甘えておく。 「赤也のご家族に先程連絡をしたが、もう既に熟睡しているとの事だ」 「うむ。赤也の部屋は1階だったな?」 「あぁ。プレゼントを置いた後にご両親に軽く挨拶をして帰ろう」 格好はサンタなのに真面目な顔で相談している三強がどうにも面白く、私は唇をグッと噛み締めて笑いを堪えた。すると、そんな私の様子を察したのか丸井君と仁王君は両隣に来て、同じような表情で私の腰辺りを肘でつついてきた。ウザい。 「さぁお前ら、立海サンタのおでましだよ」 何はともあれ、本気でサンタを信じている切原君の夢を壊すわけにはいかない。私達は目を合わせて笑った後、静かに彼の部屋に向かって歩みを進めた。 *** 「仁王君、切原君の寝相を考えて下さい!そのような場所に私の参考書をおいてはいずれ彼の頭に直撃します!」 「おいブン太、つまみ食いすんなって!」 「キエエェエッ!!こいつ、俺が前にやった書をこんなにクシャクシャにしよって!」 「弦一郎うるさい、赤也が起きる」 夢を見た。先輩達のうるさいけど大好きな声が聞こえて、目の前にはいっぱいのサンタさんがいて。 「それにしても切原君の部屋は汚いな」 「あー?俺んちもこんなもんだぜぃ」 「赤也、部室のロッカーも汚いしね。ほらお前ら、そろそろ親御さん達に挨拶に行くよ」 でも、先輩達の声をしたサンタさん達は俺から離れようとしていた。だから気が付くと手を伸ばしていて、その手はサンタさんの中で1番小さいサンタさんの手だった。 「サンタさん、行かないで」 「おやおや、寝惚けているのでしょうか」 「夢の中でもモテモテじゃのう、田代」 小さいサンタさんは1回溜息を吐いた後困ったように笑って、俺の手をやんわりと離した後優しく頭を撫でてくれた。 「メリークリスマス、切原君」 小さいサンタさんだけじゃなくて、その後ろで笑ってるサンタさん達も皆暖かくて居心地が良くて、俺はそのまますげぇ幸せな気持ちでまた眠りについた。 で、朝目を覚ますと枕元にはいっぱいプレゼントがあって、俺はそのプレゼントを全部抱えて台所までダッシュした。 「母ちゃん見て、サンタさん来た!!」 「良かったわねぇ赤也、ちなみにサンタさん、こんなものも置いてってくれたわよ」 「うっわーケーキ!?超美味そう!食う!今すぐ食う!」 「頼んでいたものは来たか?赤也」 しかも台所の机にはすっげぇ美味そうなケーキもあって、俺の気持ちは更に浮かれた。とりあえずこのプレゼントはもっかい部屋に置いてこようと思って踵を返すと、新聞を読んでた父ちゃんに笑顔でそう聞かれた。 「―――おう!」 今年のクリスマスプレゼントはプレゼントっつーよりも願い事に近かったから、サンタさんはちゃんと叶えてくれるか心配だったけど、もうなんっも文句なし。本当最高サンタさん。満面の笑みで答えた俺に、父ちゃんと母ちゃんは嬉しそうに笑った。 これからもずっと、先輩達と一緒にテニスして馬鹿やってられますよーに。 |