「んじゃお前らちゃんと手合わせて!いっただっきまーす!」 そして、約1時間後。たくさんの蒸し器が跡部家に用意されていたおかげで、これだけの数があるにも関わらず肉まん、あんまん作りは意外と早く終了した。今は全員が広い一室に輪になって座っており、丸井君の掛け声で食べ始めた所だ。 「先輩、これ俺が作ったやつっすよ!はい、アーン!」 「アー、っついぞ切原君!」 「田代の貴重なボケなりー」 「晴香晴香っ、俺のも食べてほCー!」 切原君に無理矢理口に押し込まれた肉まんはそれはそれは熱く、私は思わず叫び声を上げてしまった。肩を指でつついてからかってきた仁王君はやはりスルーだ。とりあえず切原君の肉まんをよく冷ましてから口に入れ、次にジローのあんまんを口に入れ。…何か味が混ざってしまったがまぁ、美味しい。その事を声に出せば2人は満面の笑みを向けて来た。 「柳せんぱーい!俺の作った肉まん食べて下さいっすー!」 「あとべあとべ、食べてー!」 そうすると2人は離れて行き、ようやくこれでゆっくりと味わえる。ちなみに饅頭は日吉君の悪知恵を拝借して、それぞれ形の良い物を選んだ。 「田代、俺が作ったのをやろう!」 「いや、真田君のはいらない」 「田代さん、そう言わずに受け取ってあげて下さい。真田君が涙目になってます」 「何キャラやねん」 真田君が差し出して来た肉まんは他の人が作ったのよりもいびつで大きく、何だか彼らしいなと思った。とはいえ柳生君のフォローに乗るほど私も甘くないぞ。 「まさか次の約束がこんな早くに果たされるなんてな」 「あぁ、確かに」 そうしてもぐもぐと饅頭を頬張り続けていると、隣に景吾君が腰を降ろして来た。次の約束というのは、この前此処に来た時の帰りに言った今度は立海も呼んで来い、という言葉の事だろう。肉まんやあんまんのような庶民的な食べ物は景吾君の舌には合わないと思っていたが、意外にもそれらを食べているその表情は満更でもない。 「あんなに作りやがって、腐る程おかわりあるぞ」 「全部食べるから大丈夫」 「だろーな」 喉を鳴らして笑い、またパクリと肉まんを齧る景吾君。その横顔に生地作りの時に付いたのであろう粉を見つけて、私はそれをさっき幸村君にしてもらったように自分の袖で拭った。すると景吾君は少し照れたように頭を叩いて来て、また肉まんを齧って飲み物を取りに違う場所へ行った。 「いたっ」 何となく、特に意味も無くその後ろ姿を見つめていると、またもや私の頭に緩い衝撃が走った。なんでこんなに頭を叩かれなければいけないんだ、と不服な表情を隠す事無くそちらに目を向ければ、そこには私以上に不機嫌な顔をしている幸村君がいた。え、なんで。 「どうしたんだ幸村君」 「別に」 「肉まん食べるか?」 「もう食べた」 「あんまんは?」 「食べてない」 「じゃあ、ほら」 何だか最近、幸村君はよくわからない表情を浮かべる事が多くなった気がする。どれだけ考えてみた所でその気持ちは私には分からないから、結局こうやって違う事で気を逸らすしかないのだけれど。 一口分にちぎったあんまんを差し出せば、幸村君は少し困ったように笑った後それを食べてくれた。 「ごめん、何でもないから今の」 「ん」 すると次は頭を撫でられ、そのまま幸村君もまた違う所へ行ってしまった。本当に何だったんだろうと思うが、気にするだけ無駄だ。 「跡部と幸村に懐かれるなんて、激すげぇなお前」 「今のは懐かれてるという事になるのか?」 「宍戸、それは多分この子に言っても無駄だよ。無自覚だと思うから」 更に意味の分からない事を言う宍戸君と滝君の言葉も気にせず、私はただただ饅頭を食べ続けた。しばらくして始まったジロー、向日君、切原君、丸井君による残りの饅頭争奪戦にも勿論参戦した。コンビニ以外の饅頭は初めて食べたが、コンビニよりもずっと美味しいと思った。 |