「Aー!?丸井君何これー!?」

「お前ろくに作り方も知らねぇくせに企画したのかよぃ!貸せ!」



肉まん作り大会当日。

駅前で集合した私達は普通に電車で神奈川まで行こうと思ったのだが、切符を買う直前に景吾君から電話が入った。そして電話に出るなり彼は、近くの空き地に移動しろ、という指示を出してきた。一体なんだろうと思いつつ空き地に移動すれば、そこには何台かのジェット機、ヘリが用意されていた。

いや、正直近付くに連れて聞こえるバババババという音で何となく気付いてはいたが、こうも実際に目の当たりにすると若干引くものがある。それは皆も同じだったようだが、景吾君が好意で用意してくれた事には変わりないので、私達は何とも言えない気持ちで仕方なくそれらに各々乗り込んだ。二度目ではあるが慣れそうにない。

それから無事に跡部宅に着けば、既に氷帝の皆がご丁寧にエプロンまで着て勢ぞろいしていた。フリルのエプロンを着ているジローが私達にもエプロンを渡して来て、厨房に移動して、いよいよ肉まん作りの開始だ。



「悪ィな、あいつ言っても聞かねぇからよ」

「そんな事だろうとは思った」



調理に四苦八苦している皆を傍目から見つめていると、宍戸君が隣に来てそう言った。なんだかんだで皆頑張っている所が面白い。



「晴香、お前これこねて!」

「肉まんの具か?」

「おう!」



すると私が傍観しているだけな事に気が付いたのか、向日君は粉をたくさんつけた顔で大きなボウルを差し出して来た。中身は今言った通り肉まんの具で、挽き肉などがごっそり入っている。同時に宍戸君も生地が入ったボウルを渡されていた。他にも私達と同じようにボウルを持っている人は何人かいて、一体何個作るつもりなんだという疑問が頭の中に浮かぶ。



「田代ー、生地一緒に作ろー」

「仁王君、今私が何をしてるのか見えてないのか」

「嬢ちゃん嬢ちゃん、これ使えば手ベタベタにならんで済むで」



出来上がった生地を丸々持った仁王君、ビニールの手袋を持った忍足君が近付いてきて、私はとりあえず忍足君からそれを受け取る。駄々をこねている仁王君はスルーだ。



「シカトとは酷いなり。でも喜びんしゃい、肉まん以外の具もあっちで作っとったぜよ」

「本当か?なんのだ?」

「っちゅーても餡子だけやけどな。まぁ肉まんだけよりかはマシちゃうん?」

「すっげぇな跡部、自分出来ねぇくせに材料だけはちゃんと揃えてんだな」



宍戸君の発言で横に目を向ければ、そこには真田君と手こずりながらも調理を進めている景吾君が居た。柳生君と滝君がその光景を苦笑いで見つめていて、思わずこっちまで笑えて来る。



「おい晴香、笑ってんじゃねぇぞ!」

「あ、バレた」

「いいから跡部は手動かせ!まだまだこね足りねぇぞ!」



眉間に皺を寄せ、怪訝な表情で怒って来た景吾君と共に来たのは丸井君だ。その後ろにはくっつくようにジローもいて、あれ、なんだかうるさくなって来たぞ。



「えー何騒いでるんすか!俺も仲間に入れて下さいよ!」

「って何やっとんねん樺地、なんで切原の事肩車しとるん」

「ウス」

「クソクソッ俺の方が高いんだかんな!」



1人集まればまた1人と、餌に集る動物かこの人達は。私はそのうるさい輪の中からそそくさと抜け出し、静かに作業を進めている輪の中に入り込んだ。



「やっぱり、お前は来ると思ってたよ」

「だって皆うるさい」

「田代、顔に粉がついてるぞ。概ね芥川にでも付けられたんだろう」

「手がベタベタだ。とって幸村君」

「ジッとしててよ」



静かな輪、というのは柳君、幸村君、桑原君、鳳君、日吉君達の事だ。まずは柳君に指摘された箇所を隣にいる幸村君の袖で拭ってもらい、そして再び作業を進める。これでようやく落ち着く事が出来る。



「田代さん、これいつまでこねるんですか?」

「私もよくわからない」

「あ、じゃあ俺とジャッカルさんの生地と晴香さんと日吉の具でもう形作っちゃいましょうよ!」

「あぁ、そろそろ良いかもな」



幸村君とは逆隣にいる日吉君も私と同じく肉まんの具をこねていて、ふいにそう問いかけられた。その質問に対し新たな提案をしたのは鳳君で、私含め誰も特に異論は無いから次はその作業に取りかかる。ちなみに柳君と幸村君はこれまで何もしていなかったが、形作りには参加するのかいそいそと準備をし始めた。



「柳君、肉まんの形ってどうやって作ればいいんだ?」

「本来ならば1番作り方を把握しているブン太に聞くのが良いのだろうが、なんせあっちは修羅場だ。大体の形は予想が付く、やってみるから見ていろ」

「まぁ、適当にやっとけばいいんじゃない?」

「同意です、食べる時に綺麗な形の物を取ってしまえばいいでしょう」

「日吉悪知恵だよそれ!」



鳳君が笑ってツッコんだのを聞いて、確かに彼らしからぬ意外と子供な発想だなと思い桑原君と目を合わせて笑った。そのせいで日吉君は拗ねてしまったが。ごめん日吉君。



「あーもう田代下手糞、蓮二が作ったのちゃんと見てた?」

「幸村君だって柳君ほど上手くない」

「お前のよりマシ、ほら一緒にやるよ」

「ん」



ただ、こうして静かに作っていられたのも束の間。勝手に作業を進めている私達を見て他の人達がまた集まって来たのは言うまでも無い。
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