「ぐおぉおおぉ…!重ぉおお…!」 「ブンちゃん頑張れー」 「れー」 時は経ち、放課後。 約束通り、荷台に仁王君、サドルに私、立ちこぎで丸井君が自転車に跨り、私達は3ケツなるものを実行している。場所は裏門前、見送りには柳君、幸村君、桑原君が来ていて、うるさい真田君と柳生君がいなくて良かった、と思った。切原君はまだ授業中なのか来ていない。 「不安定だな…俺の自転車貸すぜ?」 「最近太った丸井には良い運動になるだろう。しかし人目にはつくなよ、2人乗りでも違反なのにお前達は更に上をいっているからな」 「柳うるせーっつーの!あぁわかってるよ、裏道から行くぜぃ」 「行ってくるなり」 「待って」 柳君の忠告を受けていざ発進、という時、私達のこの状態を見てから何故か不機嫌顔になっていた幸村君が、これまた不機嫌な声でストップをかけてきた。スタスタと歩み寄ってくる足音は私の隣で止まり、グイッと勢いよく手を引かれる。勿論反動でサドルから落ちた。ついでに前にいた丸井君もつんのめったが幸村君はそんな彼には一切目もくれず、鞄からジャージのズボンを出して私に差し出してきた。 「そんな短いスカートで不安定な格好するなよ。これ下に履け」 「サイズを間違えてこれ以上長く出来ないんだ。ありがとう」 とりあえずこれ以上不機嫌にさせても面倒なので、幸村君の肩を借りながら片足ずつジャージを履く。ジャージは勿論ブカブカなのだが、履いていないより遥かに暖かい。そして幸村君は私の首元のマフラーを今一度きつく巻き、行ってらっしゃい、と背中を押した。 「ほんじゃ、出発進行―!」 「ナスのお新香ー」 「あっはっは、田代がしんちゃんの真似したぜよ!ウケる!」 坂を下れば、冷たい風が顔面に吹き付ける。 「見事な過保護ぶりだな、それだけなのかは知らないが」 「うるさい。ジャッカル、早く落ち葉にファイヤー出して」 「…勘弁してくれ」 でも、そんな事も気にならないくらい、気持ちは暖かかった。 *** 別に意識何てしてるつもりはない。 「落ち葉が燃えて、炎が出ている所に投入しても芋は上手く焼けない。炎が消え、熾火になった所に投入するのが基本だ」 「なんかよくわかんないすけど、とりあえず炎が燃え尽きるのを待ってればいいんすか?」 「うむ、そういう事だろう」 あいつの事が特別なのは自分でも自覚している。でも、それは別に俺だけじゃない。いつの間にかあいつが大切になっていたのは他の奴らにも言える事で、当然の事だ。 でも蓮二は、俺が自覚している以上の気持ちが俺にあると遠まわしに言ってくる。そしてそれがどんな意味を含んでるのかも理解出来るから、尚更腹が立つ。 「しかし、いくら人気が無いとはいえこんな事をしているのが見つかったらなんと言われますかね…」 「それは俺も気になっていた所だ。俺達だけで火気を扱っていいのだろうか」 「俺昔此処で近所のおっちゃん達と焼き芋したことありますよー!大丈夫ですって!」 「そういう問題じゃなくないか?」 「それに、おっさんなら副ブチョがいる…って痛いっすよ!冗談ですって!」 騒ぎ続けているこいつらを見ながら、1人でそんな事を悶々と考える。すると、こんな俺の心情を全て見透かしたような表情を浮かべた蓮二が、飄々と隣に立ってきた。何この余裕っぷり、やっぱり腹立つなぁ。 「3人にはスーパーのレンジで、予め芋を少し温めてくるように伝えておいた。その方が焼き時間を短縮できるからな」 「そう」 「と、話を変えてみたが、どうだ」 「…本当良い性格してるよね、お前」 俺の言葉に蓮二は楽しそうに笑い、まぁなと呟いた。こういう面ではかなわないとわかっているからこそ悔しい。 「別に焦る事も深く考える事も無いだろう」 「散々意味深な事言っておいてよく言うよ」 「この目で見て感じた事を言ったまでだ。まぁ、俺は良いと思うがな」 「帰ったぞーぃ!」 そしてまた意味深な事を言って来た蓮二を横目で睨み付けると、こいつは俺から離れ帰って来た3人の元に行った。覚えててね蓮二、と内心毒を吐きつつ俺もそっちへ行こうとすると、その前に田代が小走りで寄って来た。 「幸村君、これ暖かい」 「だからまだ返したくないんでしょ?いいよ、履いてて。ついでに上も貸す?」 「うん」 「はいはい」 マフラーに顔を埋めて俺を見上げながらそう言って来た田代に、手元にあった鞄からジャージの上を引っ張り出して、そのまま肩にかけてやる。すると田代は赤い鼻を啜って、少し目を細めお礼を言ってきた。 「あっちへ行こう、芋が出来る」 「…あぁ」 もう一度言う。別に、意識何てしてない。 |