何もかもが暖まるひととき

「田代、トリックオアトリート」

「は?」

「お菓子くれなきゃ焼き芋するッスよ、先輩!」

「どっちにしろするがのう」



朝、いつも通りHRが始まるギリギリに教室に行くと、そこには丸井君と仁王君だけではなく切原君もいた。彼らの言葉がおかしい事には変わりないが、その言葉で今日がハロウィンだという事に気付く。



「そこは悪戯じゃないのか」

「されてほしいんっすかー?もう、先輩かまってちゃんなんだからー!ほらっコチョコチョー!」

「いや焼き芋が良いけど。切原君、重い」

「赤也ー、それくすぐってんじゃなくて抱き着いてるだけだろぃ」



切原君の肩越しに教室を見渡してみると、皆(主に女子)はやはりお菓子交換をしていた。こんなに浮き足立つものだったか、ハロウィンって。毎年お母さんが作ってくれるかぼちゃのケーキは美味しいから好きだが、自分がその行事に乗っかった事は記憶上無い。去年のこの時期は色々と大変だったし。



「放課後、近くの空き地でやるぜよ」

「他の人達も一緒か」

「当然だろぃ!」

「今日は部活もオフなんで、久々に遊んで下さいよ!あ、それじゃ俺そろそろ行きますね!」



そんな事を考えていたらいつの間にか話は進んでいて、切原君は教室に帰って行った。その今にもスキップでもしそうな浮かれた歩き方に、かまってちゃんなのはどっちだ、と内心呟く。



「芋はどうするんだ」

「授業終わったら近くのスーパーまでダッシュだ!なんならお前のチャリ俺がこいでもいいぜぃ!」

「そうか、いってらっしゃい」

「え?そこお前が後ろに乗って2ケツで行くとこだろ。俺1人に行かせるとか酷い酷い」

「ブンはチャリこぐの速いからのう、火おこして待ってるぜよ」

「お前ら嫌いだ」



そこで先生が入ってきて、丸井君は不貞腐れたように机に突っ伏した。それを見て私と仁王君は噴き出すように笑う。



「仕方ないな」

「寂しがりじゃのうー、着いてってやるぜよ」

「私だけじゃなくて仁王君もだから3ケツになるがな。こぐの頑張れ」

「…3ケツとか初めて聞いたっつーの」



立冬ももうすぐなこの時期は、もう外もだいぶ冷えて来ている。だから外出はあまりしたくないのだが、やはりこの人達となら良いと思ってしまうのは、…そういうことだろう。言葉にするのはやめた。



「で、丸井君。お菓子は無いのか」

「あー?あってもやらねーよ!菓子は全部俺のもんだ!」

「ほう、なら悪戯が必要じゃのう」

「そうだな」

「はぁ?お前らだって持ってな、ってやめろ!くすぐっ、ギャハハハッ!!やめっ、ひーっ!」

「お前らうるさいぞー!」



舌を出して反抗して来た丸井君を、仁王君と一緒になってくすぐり続ければ、彼のポケットからは自然とお菓子が零れ落ち、私はそれを即座に口に含んだ。クラスメイトは私達を笑いながら見ていて、丸井君は疲れて再び机に突っ伏したが、この光景が凄く楽しいと感じた。
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