言葉にするのは難しくて 「秋じゃのう」 「秋だな」 「に゛ゃー」 秋空の下、私と仁王君は立海に住み着いてる野良猫のプーちゃんと共に、芝生に寝っ転がってサボりを満喫している。ちなみに丸井君は授業中に早弁をしているのがバレ、通算26回目の呼び出しを食らっている所だ。 「あーあ、こんなん面倒臭いぜよ」 「全くだ」 その時、仁王君はブレザーのポケットからある1枚の紙を取り出した。紙に印刷されている文字を見て、思わず私も気だるげな声を出す。その紙とは、俗に言う進路希望調査というものだ。 「どうせ全員このまま高等部行くっちゅーに」 「皆そうなのか?」 「多分そうじゃろ、このまま大学まで行けば将来は安定しとるし。無駄に卒業が近付いとる事を感じる紙なんかいらんぜよー」 仁王君がそう言えば、プーちゃんも同意するようにその愛らしい手を彼のお腹の上に乗せた。その仕草に私達は思わず笑う。 どうせ卒業しても皆とは一緒な訳だし、そう考えると特に寂しいとかは私は思わない。切原君だって1年経てばまた入って来るんだし、それ以前に中等部と高等部は校舎が隣り合わせと言ってもいいくらい近いし。だが、それでも仁王君はまた何か思う所があるのか、ボーッとした表情で空を見上げている。 「寂しいのか」 「なーんかようわからん。きっと俺達は変わらんのじゃろうけど、一応卒業っちゅー形にはなるんじゃし、全部がこれまで通りって訳にはいかんじゃろ」 朝は真田君と柳生君に、スカート丈についてや校門をくぐってからも自転車に乗っている事についてを注意され、教室に入ってからは丸井君と仁王君と適当に過ごし、授業の合間は幸村君がやたら遊びに来たり、昼休みは桑原君に癒されたり、放課後部活に顔を出せば切原君に柳君とまとめて抱きつかれたり。こんなくだらない日常が、本当に無くなるのだろうか。 「だが、まだ秋だぞ」 「まぁそうじゃけど。まだまだイベントあるけど!」 「ならいいだろう」 何をうじうじとらしからぬ事を言っているのか。そんな思いでそう言えば、仁王君は軽く笑った後そうじゃな、と呟いて、プーちゃんを撫で始めた。 「田代とおったら悩みも全部すっ飛んでくぜよ」 「悩んでたのか?」 「悩みっちゅーかなんちゅーか、あれなんか俺恥ずかしくなって来たなり」 「もの憂げに空を眺めている姿はサマになってたぞ」 「田代意地悪!それ以上言わんで!」 秋空に何を心惹かれたのか知らないが、さっきのような表情はこの人には似合わない。いつも通りの仁王君が1番だ。これは口には出さないが。 「あーいたいた!もー疲れたぜぃー」 「お、ブン。おかえり」 「おかえり。いい加減早弁をやめればいい話だろう」 「腹減るんだから仕方ねぇじゃん。っつーかお前もよく隠れて菓子とか食ってるだろぃ!」 そこで、心底疲れた表情を浮かべた丸井君がようやく呼び出しから帰って来た。彼は私の隣に私達と同じように寝そべり、これで川の字スタイルの完成だ。普段は人気スポットの此処も、授業中となれば辺りは静寂に包まれている。誰も話し出さなければ少し肌寒い秋風が吹く音しか聞こえず、そんな空間がとても落ち着く。 「あー、ずっとこのままでいてぇなー」 ポツリ、と風に乗せるように紡がれた丸井君の言葉に、私と仁王君はさっきの会話が会話だっただけに、何も返す事が出来なかった。その代わりに、プーちゃんがに゛ゃー、と相変わらず濁った声で鳴いた。 |