「Aー晴香も泊まっていけばEのにー」 「明日は部活に行くことになってるんだ、ごめん」 「気を付けて帰れよ。っつっても跡部が送ってくみてぇだけど」 「当たり前だろ。行くぞ」 騒がしい時間はあっという間に過ぎ、明日部活を控えている私と2年生組はここで解散となった。私も2年生組と共に電車で帰ろうと思ったのだが、またもや景吾君がヘリで送ってくれるらしい。確かに便利だが少々大袈裟だな、とも思う。 「俺はもう着いてかなくてえぇんか?」 「侑士!お前は俺とマリカー勝負しろ!次こそは絶対勝ってやる!!」 「あぁ、お前は子守でもしてろ」 「晴香ちゃん、また遊ぼうね」 「あぁ」 最後までジローはぐずっていたが、滝君のその言葉により私達はようやく玄関から出た。 「では田代さん、また近いうちに!次は俺がクッパで挑戦します!」 「じゃあ私はドンキーでやる」 「またいつか」 「あぁ。樺地君も元気で」 「ウス」 「じゃあなお前ら、明日部活頑張れよ」 玄関を出てすぐに私と景吾君はヘリに乗るので、3人とはそこで別れ、家の裏の方へ足を進める。 そうしてヘリまで辿り着けば、景吾君はまず自分が先に乗り込み、その後私に手を差し伸べエスコートしてきた。だから素直にその手を取り、勢いを付けて機内に乗り込む。再び耳につくバババババ、という音にうるさいなと思っていると、隣に座っている景吾君は満足げな表情で話しかけて来た。 「楽しかっただろ」 「ご飯も美味しかった」 「女であんなに良い食いっぷりを見せてくれたのはお前が初めてだ、ってうちのシェフが喜んでたぜ」 「あんなに美味しいハンバーグ初めて食べた」 「言っておく」 私の言葉に景吾君は更に満足げに答え、それからは色々な話をした。氷帝もうちと同じく引退してからも毎日のように部活に行っているらしく、やっぱり似てるなぁと思った。 「まさかジムでぶっ倒れてた女とこんな仲良くなるなんてな」 「あれは私も予想外だった」 「あの頃も強かったが、更に強くなったな、お前は」 そして、それまで淡々と話していたのに急に感慨深げにそう言うものだから、私は思わず言葉に詰まった。その瞬間頭の上に手が置かれ、顔を上げると優しい顔で笑ってる景吾君がいた。 「お互いお疲れ様、ってとこだな」 「…あぁ。自分で言うのもなんだが、頑張ったと思う、私も景吾君も皆も」 「いいんじゃねぇの、たまにはそういうのも」 最近は、部活をやっていた時とはまた違う新しい日々が始まってたから、こんな風にもの憂いに浸ることはしばらく無かったのに、まさかこのタイミングで浸ってしまうとは。一瞬で空気を変えられる景吾君は何者なんだろう。 「また来るだろ?」 「行く」 「今度は立海の奴らも呼んでやるか」 「切原君と丸井君は食べ物があればつれる」 「あの2人とお前はほんとガキ3人組だな」 「私をその中に入れるな、仁王君の方が適役だ」 「確かに、あいつもとんでもねぇギャップ持ってやがったか」 楽しそうに喉を鳴らして笑う景吾君は、さっき皆でいた時とはまた違う雰囲気を醸し出していて、それが何だか特別に思えて柄にも無く嬉しくなった。が、その私の考えは彼に筒抜けだったらしく、妙に誇らし気な笑みを向けて来て腹が立ったから肩を一発殴っといた。割と痛がってる、ざまぁみろ。 「随分な照れ隠しだな」 「別に照れてない」 「そーかよ」 でも、普段とは違う一面を見せてもらえることが嬉しいと思えるようになったのは、紛れも無くあの人達と景吾君のおかげだ。だから、その事に関しては本気で感謝してもいいかな、と口には出さないが心の中で思った。景吾君、楽しい1日をありがとう。 |