「へーっ、だから立海のマネージャーになったんだねー!」

「あぁ」

「じゃあさじゃあさー!」



本日何度目かわからないこの話の流れに、いよいよ疲れが出て来た。

これでもか、というくらいに質問責めしてくるジローは、それはそれは元気で騒がしい。岳人も元気には元気だが別に質問責めはしてこないし、他の人も私の話にただ相槌を打ったり、または各々好きな事をしている為、特に疲れる原因は無い。ていうか、ジローっていつもは寝てるんじゃなかったのか?景吾君から何度か話を聞いた事があるが、こんな風にテンションが高いのは稀だと言っていたのに、何故その稀な状態がよりによって今なんだ。



「ジロー、その辺にしといてやれ。晴香疲れてるぞ」

「Aー、もっと聞きたい事あるのにー」



とその時、ようやく景吾君が助け船を出してくれたおかげで、ジローの意識は私では無くテレビゲームに逸れた。出来ればもう少し早く助けて欲しかった所だが、そんな我が侭は言わない。ようやく得る事が出来た解放感に身を任せ、思いっ切り伸びをする。



「面倒なら答えなければいいじゃないですか」



関節をボキボキ鳴らしながら体をならしていると、ふいに隣からそんな無愛想な言葉が聞こえた。だから其方に視線を向ける。



「そんな事したら余計に煩くなるのが目に見えているだろう」

「損な性格してますね、貴方も」



視線の先には、部屋の本棚から引っ張り出したであろう本を手に、クッションに寄りかかって座っている日吉君がいた。彼の言葉は確かにもっともなのかもしれないが、ジローのようなタイプは放っておいても黙るどころか、更に煩くなるのが目に見えている。うちにも似たようなのが数名いるから、それは分かり切っているのだ。



「それに、話すのが嫌という訳では無い」

「じゃなきゃ此処にも来てないでしょうしね」

「…意外に素直なんだな」

「は?」



と、そこで放たれた日吉君の発言に、思わず私は言葉に詰まった。日吉君は自分で言っておいて何の事かわかっていないようだが、今の発言はつまり、



「無口なように見えるが、何だかんだ日吉君も此処にいる人達と話すのが好きなんだな」

「はぁ?いつ誰がそんな事言いました」

「“じゃなきゃ此処にも来てないでしょうしね”と言ったのは日吉君だろう」



そういう事になる。まさか自分が思っても無い意見を人に言う訳も無いだろうし、彼自身そう思ってるから口に出したんだろう。物静かな彼が此処にいるのは確かに不釣り合いな感じがしたが、なんだそういう事か。



「日吉君は不安か」

「…何がですか」

「この人達がいなくなるのが」



今日は何だかよく喋るな、と自分でも思う。でも、うちのあの賑やかな後輩と同じ立場である日吉君は、今どんな心境なのかをなんとなく聞きたかった。



「不安はありません。次は俺達の代ですから」

「そうか、鳳君と樺地君もいるのか」

「えぇ。この立場はずっと狙ってたものだし、後は来年の全国大会で優勝するだけです。だから不安は、ありません」

「不安は、か」

「はい。…不安は、です」



そこで私達の会話は終わり、日吉君は再び読書に没頭し始めた。私はそんな彼から視線を外し、この部屋にいる人達の事を見渡してみた。ジロー、岳人、宍戸君、鳳君はゲームで白熱してて、その様子を樺地君が楽しげに見守ってて、滝君は詩集を読んでて、忍足君と景吾君は会話に華を咲かせていて。



「不安は無いけど、寂しいな」



氷帝の人達はうちと同じぐらい賑やかで個性的だ。そして、心地良さも然り。例え会話や遊びに参加せずとも、その空間にいるだけで落ち着くというのは、非常にうちと似ている。だからこそ日吉君の気持ちが分かった気がしてついそう呟くと、彼は私の唇に人差し指を一度当て、また読書を再開した。照れ隠しが下手だなぁ、と思った。
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