そして閉会式も終わり、いよいよ海原祭最後のイベント、後夜祭が始まろうとしている。



「俺キャンプファイアーとか小学校の宿泊学習ぶりっす!楽しみー!」

「楽しみっちゅーてもただ火囲んで踊るだけじゃろ」

「仁王君、切原君の楽しみを奪うのは野暮ですよ」



私達はキャンプファイアーが行われるグラウンドの一角を陣取り、地べたに腰を下ろしている。グラウンド中央では既に火を着ける準備が進んでおり、生徒達はその様子を私達のように遠巻きに見守っている。



「うお、ちょ!あの木陰見てみ、中山がE組の木崎に告ってるぜぃ!」

「悪趣味な事してんじゃねぇよ」



興奮気味にそう言い身を乗り出したのは丸井君だ。それに桑原君は呆れたように対応する。告白なら自分だってしつこいくらいに受けているであろうに、私の時もそうだったが何故人のそういった事には口を挟みたがるのだろう。それが不思議でたまらない。



「全く、人の恋路を邪魔するとはたるんどるぞ」

「配慮が欠けていますね。丸井君、お座りなさい」

「そんなもの見たってしょうがないだろ、ほらそろそろ始まるから行くよお前ら」



興味が無いと思っていたのは私だけではなかったようで、幸村君のその言葉により私達は立ち上がった。意見を否定された丸井君、それに乗り気だった切原君は若干ふてくされた顔をしているが、まぁすぐに直るだろうから気にしない。そうしていると私の隣には仁王君が近寄って来て、そのままコソッと耳打ちして来た。



「田代、土田がこっち見とるぜよ」

「土田君が?」



耳打ちの内容はそんなもので、私は仁王君が向けている視線と同じ方向を向いた。するとそこには確かに土田君がいて、彼は此方を凝視していた。一体何の用だろう、まさかこんな短期間で再度告白という訳でも無いだろうし、だとしたら何か大事な事でもあるのだろうか。

そう思った私は、仁王君にちょっと行って来る、と告げてその場を後にした。後ろで仁王君の待ちんしゃい!という声が聞こえたが、今更戻るのも面倒なのでこのまま歩く。目の先にいる土田君とはというと、私が動き出したのが予想外だったのかアタフタと目を泳がせている。



「田代、さん?」

「此方を見ていたようだったが、何かあったか?」

「い、いや、あの」



…こうも動揺されるとこっちまで調子が狂うな。今までこのような待遇を受けた事がなかっただけに尚更だ。こんなもどかしい想いをするなら来なければ良かったかも、と若干後悔した矢先、土田君は口を開いた。



「キャンプファイアー、良かったら一緒に」

「それは駄目だよ」



が、彼の言葉は無残にも途中でぶった切られてしまった。私はその事に驚き、何時の間にか隣に来たぶった切った張本人に目を向ける。



「幸村君?」

「田代は俺達と居るんだ。悪いけど貸す事は出来ない」

「…そっか。幸村にそう言われちゃ入る隙間無いな」



土田君は眉を下げて残念そうに笑いながらそう言うと、田代さんごめんね、と最後に残して、そのまま去って行った。私抜きで進んだ一連の事に、開いた口が塞がらない。



「幸村君、今のは何だ」

「俺言ったよね?他の奴らの所になんか行くなって」

「話すのも駄目なのか」

「そういう訳じゃないけど、あいつは嫌」

「何故だ」

「お前を取る可能性があるから」



そう言い放った幸村君になんだその理由は、と続けて言おうとしたが、子供のようにふてくされた表情を浮かべている彼を見て、そんな言葉を口に出せるはずが無かった。



「ブチョ!晴香先輩!火着いたっすよ!」

「早く行こうぜぃ!」

「せっかちじゃのう」



そして皆もわらわらと近づいて来て、私達の会話はそこで終わった。両隣にはいつものように切原君と丸井君が引っ付いてきて、今回は仁王君までもが後ろから引っ張ってきている。重い。



「あまり火に近付きすぎてはいけませんよ」

「特に赤也、浮かれ過ぎは禁物だぞ!いいな!」

「転ぶなよー」



騒ぐ私達(なんだかんだで仁王君も着いて来てる)を見て、他の人達はそう声をかけて来た。



「なーなー田代、楽しかったか?海原祭」

「いきなりなんだ」

「俺実はあのダンス、先輩の為に練習したんすよ!」

「着ぐるみだって田代の為にわざわざブンと割り勘して買ったなり!」

「それは君達が楽しんで着せただけだろう」



そこで突如問われた質問を私はなんとかかわそうと試みるが、これが中々しつこくて逃げれそうにない。全く、言葉に出さないとわからないのかこの人達は。



「で、どーなんすか!先輩どーなのどーなのどーなの!!」

「だから、楽しかったに決まってるだろう分からず屋!」



その中でも特にしつこい切原君に、私は痺れを切らして半ば叫ぶようにそう言ってしまった。すると3人だけでなく、他の人達もニンマリ顏で近寄って来た。なんだこれ気持ち悪い。と思ってたら、途端に降りかかってくるいくつもの手。それらは私の頭を無理矢理撫で回し、頭は文字通り爆発状態だ。それを見て更に笑うこの人達。



「…馬鹿ばかりだな」



が、結局、普段は見せない笑い方を見せるこの人達につられて、私も思わず笑ってしまった。



「あぁやって笑ってくれればそれでいいんだよね、俺は」

「…そうだな(あの独占欲を見ると、本当にそれだけなのかは疑問に思えるが)」



少し離れた所で何かを話している幸村君と柳君と目が合ったから、ぎごちなく笑ってみると、2人も近寄って来て私の頭をグシャグシャと撫でた。この瞬間、去年怪我をしたのは本当に勿体無かったな、と心の底から思った。
 3/3 

bkm main home

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -