「うっひょーー!!丸井君天才的だC超うまそー!!」 「涎もダバダバ出るっちゅー話や!」 「謙也さん汚い」 体育館に着くと、他校の人達も含めほとんどが既に集まっていた。前の方を陣取り、全員でステージ上にいる丸井君の応援をする。 「なぁなぁ、あいつ何作ってんだ?」 「和菓子を作るとかなんとか言っていた」 「見る限り何種類か作るみたいやな。凝っとんなー」 おかっぱ君もとい向日君(さっき全員と一通り自己紹介を済ませた)の質問に答えると、横から蔵ノ介がそう言ってきた。確かに色んな形のものを作ってるし、手際も流石だ。食い意地というのはいやはや恐ろしい。 「田代、お前も人の事言えないからね?」 「心を読まないでもらえるとありがたいんだが」 サラッとあり得ない事を言ってきた幸村君はスルーするとして、私達は丸井君が失敗しないようにと祈りながら、ただただその和菓子達の完成を待った。 「出来た!」 数十分後、参加者の中で1番最初に丸井君が終了の合図を出した。一般生徒の中にもファンが多い彼がそうした事により、体育館内は女子達の声援で多いに湧き上がった。完成したものにはすぐに自分で蓋をする事になっているから、和菓子達がどんな感じに完成したのかはわからないが、作る過程を見ていた限り凄く美味しそうだったと思う。 「終了ー!参加者の皆様は調理を止めてくださーい!」 それから少しして全体の調理時間が終わり、審査員の校長先生、教頭先生、家庭科の先生、他にも数名の先生と料理部の生徒が登壇し、いよいよ実食の時となった。参加者は全員で7人で、丸井君の順番は位置的に恐らく5番目だ。1人、また1人と実食を終え、いよいよ彼の番が来た。 「丸井君堂々としててかっこEー!」 「ちょっとやそっとじゃ先輩は動揺しませんからね!」 切原君が鼻を高くして丸井君の事を褒めると、他の人はそれを微笑ましそうに眺めた。傍らで光が謙也に、謙也さんも自慢できるような先輩になって下さい、と言ってどつかれていた。 そうこうしている間にも丸井君の和菓子の説明は始まっており、どうやら彼はわらび餅、桜餅、草餅、鶯餅と、餅シリーズで攻めたらしい。審査員はそれらをゆっくりと咀嚼し各々感想を述べているが、料理に疎い私はその感想とやらにはさほど興味が無い。だから、兎に角発表の時を待った。 「器用ですね、凄く美味しそうです」 「そうだな」 鳳君の言葉に相槌を打ち、他にも他愛もない話を皆と交わし。そうしているとあっという間に発表の時間となり、雰囲気を出す為に暗くなった体育館に呑まれるように、私達は静かになった。数々のスポットライトが体育館中を駆け巡り、そして。 「優勝は3年B組丸井ブン太君でーす!!」 それらは一点、丸井君に集中して照らされた。司会者の声が体育館内に響いたかと思うと、すぐにそれは他の生徒の声で掻き消された。私の周りのテニス部は勿論、ふと後ろを振り向くと丸井君が可愛がっているテニス部の後輩達も踊り出す勢いで喜んでいた。彼のファンである女子達は言わずもがなだ。 「おっしゃーーい!!やっぱ俺って天才的ぃー!」 「せんぱーい!」 「丸井くーん!」 喜びを露わにする丸井君の元へ、切原君とジローが駆け寄る。たかが料理大会、されど料理大会。恐らくこんなにテンションが高いのは海原祭という雰囲気にあやかっているからだろうが、それでも、この人達が楽しいならいいか、と思った。 「田代、嬉しそうだね」 「…あの餅を全部食べれると思うと嬉しくて」 「素直じゃないんだから。後で祝ってやりなよ」 ふいに核心をついてきた幸村君に咄嗟に言い訳をしたが、どうにも彼には見透かされてしまうらしい。だから私は仕方なく、わかった、と返事をした。 自分の数少ない知り合いがこんなにも集結して、しかも皆が皆笑顔というのはなんだか不思議な感じがする。でも、こういうのも悪くない、かな。 |