「…なんか、あまり見たく無いものを見たような気がする」 「大丈夫か田代」 場所は変わり、3年A組。此処は真田君と柳生君のクラスで、彼らはワッフル屋を出店しているとの事だ。…彼らがワッフル屋という時点で嫌な予感はひしひしと感じていたのだが、こうも実際に目の当たりにすると中々厳しいものがある。此処に向かっている途中で合流した桑原君は、心中察するぜ、という言葉と共に私の背中を軽く叩いてくれた。 「おや、いらしていたのですね!ちょうど席が空いたのでどうぞこちらへ」 「む!来たか!」 「…百歩譲ってヒロシはありだけど、真田はありえねぇだろぃ」 「全力で同意だ」 私達の目の前には、淡い色を基調としたフリルのエプロンをつけている2人がいる。さすがワッフル屋というだけあり、教室の装飾も全体的にファンシーなテイストとなっている。女の子や線が細めの男子はまぁ良いとして、この2人がこのエプロンというのは凄まじい破壊力があり、幸村君なんてさっきから携帯で連写してばかりだ。 「やーぎゅ、とうとう女装にまで走ったか」 「何を世迷い事を。衣装なのですから着るのは当然でしょう」 「うむ、クラスの輪を乱してはならんからな。それより早く注文を決めんか」 自分達は似合っていると思ってるのか知らないが、やけに2人は堂々としている。なんかわからないが、それが凄くイラッとした。 「ワッフル10個。あと紅茶とココア」 「田代さん、それでは在庫がきれて」 「ワッフル10個。あと紅茶とココア」 「わ、わかりました」 だから腹いせにそんな注文をすると、2人は急いで準備を始めた。走る度に揺れるフリルがなんとも気持ち悪い。思わず私が顔を顰めながらその様子を見ていると、隣に座っている幸村君から頭をポン、と叩かれ、お前もやるようになったね、と笑いながら言われた。 「そういえば田代、その着ぐるみよく似合ってるぜ」 「喜んでいいのかいまいちわからないが、桑原君が言うなら別だな。ありがとう」 「出ました田代のジャッカル贔屓ー。買ってきた俺達にお礼の言葉は無いのかよぃ」 「幸村君、この後柳君のおにぎり屋に行きたい」 「いいよー」 「うわ、無視ぜよ。俺達泣いちゃうなり」 とまぁこんな感じでやり過ごし、この後私達はワッフルをしっかり美味しくいただいた。多分もう此処には来ないだろう。 *** ワッフル屋の後は約束通りおにぎり屋に行き、おにぎりを3個程食べ、そうすると私達の休憩時間はもう終わる頃になっていた。だから幸村君と桑原君に別れを告げ、宣伝をしながら教室に戻る。そういえば、桑原君のクラスも幸村君のクラスと同じ創作展示だから暇らしい。なんだかあの2人のペアは珍しい感じもするが、心配なのは桑原君だけでまぁなんとかなるだろう。彼がパシリにされてない事を願うばかりだ。 「そうえば明日って一般公開だよな。田代誰か誘った?」 「…忘れてた」 「おまん他校に知り合い多いじゃろ。誘わんのか?」 「他校といっても四天宝寺は大阪だし、景吾君だって東京だし。わざわざ此処まで面倒だろう」 「まー確かになぁ」 でもまぁ、一応メールだけはしてみるとするか。明日は一般公開で、それが終わった後は片付け、更にその後は後夜祭だ。確かキャンプファイアーとかなんとか。 「まだまだ長いな」 「んだな!明日は料理大会もあるし、お前ら絶対見に来いよ!」 「今年も優勝出来るとえぇのう」 いやいや絶対してみせっから!、と自信満々な丸井君を見て、去年病室で食べた彼が作ったケーキ、RIKKAIスペシャルを思い出した。あのケーキ以上に美味しいものが食べられると思うと、少なからず浮かれた。それにしてもこの着ぐるみ、暑い。 |