花火に馳せた想いは秘密

いよいよ準備も最終確認の段階まで行き、明日には前夜祭を迎える、そんな今日。午後5時14分、不可解な事がこの裏庭で起こった。



「───で、その…付き合って欲しいんだ」

「何処にだ?」

「へっ?あ、そっか実は天然だったんだよね田代さん」

「何の話だ」



というのも、人気の無い此処に同じクラスの男子から呼び出される事約10分が経過しているが、いまいち何が言いたいのか伝わってこないのだ。最初は私と話すようになった経緯、それからの私への印象などを語られ、最後にこの台詞と来た。別に私の事を事細かに話さなくても学祭の買い出しくらいなら付き合うのに、一体どうしたのか。

と、思っていた時だった。



「何処に付き合って欲しいとかじゃなくて、俺、田代さんの事が好きなんだ。だから、俺と付き合って欲しい」

「…は?」



告白された。…あれ、デジャヴだ。



***



「田代がぁあああぁあ」

「告白されたああぁああぁ」

「仁王君丸井君うるさい」

「晴香先輩ぃいいぃ!!」



そして場所は変わり、午後5時38分、テニス部部室。私が先程の男子に呼び出された事は皆知っているから、部室に足を踏み入れるなり、何て言われたのかと問いただされた。内容が内容なだけに言うのは戸惑ったが、この人達のしつこい攻撃に耐えられるはずも無く、結局告白された、と小さく呟く結果となってしまった。

すると予想通り、丸井君、仁王君、切原君は騒ぎ始め、柳君はノートを取り始め、真田君は保護者のように怒り出し、柳生君と桑原君はそんな彼らを呆れたように宥め始めた。地獄絵図だ。…しかも。



「…幸村君」

「で、まさかOKしたなんて言わないよね?」

「まぁ、そういう気持ちはあの人に対して持っていないからな」

「そう」



誰よりも幸村君が1番怖い。なぜこれ程にまで怒っているのかはわからないが、兎に角目つきやら雰囲気やら全てが怒りに包まれている。というか、そもそもあぁいった告白ならこの人達の方がされ慣れているに決まっているのに、なぜ私の告白1つで此処まで動揺しているのか私には理解できない。そう思いながら引っ付いて来る3人の相手を面倒くさいという気持ち一心でしていると、バンッ!と資料が机に叩きつけられる音が部室に響いた。音を発した張本人はやはり、幸村君だ。



「3人共うるさい、早く離れな。赤也、お前が言うから部室展示の確認しに来てやったんだけど?無駄な時間とらせないでくれるかな」

「すみませんでした」



3人分の謝罪が即座に幸村君に向けられ、ようやく静かな雰囲気が戻って来た。今年の立海テニス部はかき氷、アイス屋を出店するらしく、それに見合った装飾物が飾られている部室にこの緊迫した雰囲気は些か不似合いだ。



「お互い、無自覚というのは恐ろしいな」

「何の事だ?」

「いや、いい、独り言だ。ほら、前を向きなさい。精市に怒られるぞ」



隣に座っている柳君からそんな声が聞こえたから振り向くと、頭の上に手を乗せられ、そのまま前、つまり幸村君が座っている方へ首を戻された。既に幸村君は話し始めていて、先程までの会話は無かった事のようになっている。



「柳君、幸村君はどうしたんだ?」

「何かおかしいか?」

「見るからに不機嫌だ」

「まぁ、お前が自分から気付く事は恐らく一生無いだろうな」



伏線がかった返答ばかりを寄越す柳君に、もう一度首を振り向かせて顔を向ける。するとその途端前方から、田代、と呼ばれた。だからまた首を戻す。あ、目が回りそうだ。



「キョロキョロしないでちゃんと前見て。後、前夜祭から学祭終わるまで1人で行動しないで」

「何故だ?1人でも行動出来るぞ」

「そういう事じゃなくて、いいから絶対ね。約束破ったらぶん殴る」

「嫌だ、痛い」



じゃあ守る事だね、と幸村君は言い、話を再開した。もう柳君の方へ顔を向けられないから正確ではないが、少し笑う声が聞こえた所から彼は楽しんでいるのだろう。…この状況の何が楽しいのか全く理解出来ないが。そういえば、あの男子の名前、何だったんだろうか。
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