「先輩、好きです」



後少しで教材室に辿り着く、というその時、ふいにその教室の中からそんな声が聞こえた。こんなドア全開の状態で告白なんて、大胆というか迷惑というか、と冷めた思考が頭を渦巻く。とはいえ、人の告白を台無しにする程俺だって空気が読めないわけじゃない(普段はあえて読まないだけでね)。仕方なく一連の事が終わるまでドアに背を預けて待ってよう、と体を反転させた直後、随分聞き慣れた声が耳に入った。



「は?」



田代だ。…たった一文字の声で即座に判断出来る俺ってどうかしてるかもしれないけど、今はそれは放っておいて。って事は何、こいつ女に告白されてんの?何それ面白い!

さっきまでの抑制が一気に解けた俺は、好奇心を胸いっぱいに抱えてドアから中を覗いた。するとそこには、2年の女子の頭に手を乗せている田代がいた。あ、女子田代に抱きついた。



「ちょ?」

「ごめんなさい正直言うと先輩凄くクールな印象だったから学校で話しかけるの怖かったんです!助けてもらったのに本当にごめんなさい!でも大好きです!」

「はははっ、田代、傑作!」

「笑ってないで助けてくれ!」



あれだ、この子、去年の海原祭で田代が助けた子だ。何これ1年越しの想いってやつ?まぁ確かに田代は男よりも女からモテる感じだけど、これは傑作だ。女の子に抱きつかれて焦ってる田代なんて早々見れたもんじゃない。だから俺はポケットから携帯を取り出して写メを撮った。その事に対して田代は結構な反抗をしてきたけど、なんせ身動きが取れないんじゃどうにもならない。あーもう面白い!



「何を騒いでいるんだ精市」

「あ、蓮二!見てこれ!」

「ん?…田代?」

「柳君、助けてくれ」



その時、廊下の向こうから蓮二が歩いて来た。勢いよく手招きをすれば蓮二も興味を持ったのか、早歩きで俺の元に来た。そして教材室を見て少し驚いた、でも何処か楽しそうな表情を浮かべる。ほらね、やっぱり面白い。



「小動物に懐かれたのか」

「小動物にしては力が強いぞこの子は」

「先輩大好きー!」

「女版赤也みたいだね。田代モテモテ!」

「複雑な心境でしかないんだが」



でも、流石に気の毒に思ったのか蓮二がやんわりとその女子を引き離すと、田代はどっと疲れが襲って来たのか眉間を指でほぐし始めた。巻き込まれ体質だなぁ。

対照的に、女子は宝物を見つけたかのような目で田代を見つめている。蓮二の抑制がなきゃすぐにでも飛び付きそうだ。



「先輩、私大塚瑞穂です!2年A組です!よろしくお願いします!」

「あぁ、わかったから」

「じゃあまた!大好きですー!」



一方的とも言える自己紹介を済ませるなり、女子もとい大塚さんは嵐のように去って行った。教材室に来た癖になんも紙も持たないで帰ってったよあの子、田代に会えたから良いって感じかな?うわー乙女!



「田代、告白の返事はしたのか?」

「からかうのも対外にしてくれ」

「良かったね、お前女にはよくモテるもんね」

「別にどうでもいい」



田代は乱れた制服を整え、画用紙を何枚か手に取り、そのまま教室に向かって戻って行った。後ろ姿から疲れているのがわかって、思わずまた笑いそうになる。



「精市、女には、というのは誤りだぞ」

「は?」

「最近になって田代の男子からの人気は上昇している」

「…は。聞いてないし何それ」



その時、蓮二が急に言い出した言葉に、俺は自分でもはっきりわかるくらい腹を立てた。男子からの人気?いやいや認めないから。だって、田代は俺達のだ。



「元々整った顔立ちはしているだろう。部活を引退してから時間に余裕が出来た事で、テニス部以外の男子とも話すようになったのが原因だな。間近で見ると綺麗、という評価が後を絶たない」

「そんなポッと出の奴らに田代は渡さないけどね」

「…あぁ、そうだな」



俺が不機嫌全開言い返せば、蓮二は薄く笑った後にノートに何かを書き始める。覗き見しようとするけど、こいつは反射神経が無駄に良いからそれは叶わない。なんなのどいつもこいつも、気に食わないなぁ。さっきまでのテンションが一瞬にして急降下した俺は、既にかなり小さくなっている田代の背中をしばらく見つめて、それから思いっ切り視線を逸らした。田代のバーカ!
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