いつまでもそこにいるといいよ

「田代田代ー!これ何処に飾ればいいー!?」

「前の方のドアの上」

「田代、これは?」

「教室の外の掲示板」

「田代田代ー!」

「うるさい!」



午後4時27分。教室に残って着々と準備を進めている最中、丸井君と仁王君は金魚の糞の如く私に付き纏って来る。自分で少し考えればわかる事をいちいち聞いてくるものだから、面倒臭い事この上ない。

前回のホームルームで私は訳もわからないまま実行委員に任命されたのだが、クラスの皆が協力的に手伝ってくれているお陰で作業はスムーズに行われている。ちなみに出し物はほぼ女子の押し切りと言っても過言ではないが、噂通りコスプレ喫茶をやる事になった。



「田代ちゃん、装飾こんな感じでいいかな?」

「あぁ、可愛い」



出し物に見合った装飾も女子達が考えてくれた。私はその複数の意見をまとめて全体のイメージを把握し、指示する役割となっている。あぁ、だからこんなにも質問責めされるのか。黒板にイメージ図でも貼り出しておけば皆勝手にやってくれるだろうか。

そんな怠惰な考えを頭の中で浮かべていると、やっと大人しくなったと思った丸井君と仁王君がまた話しかけてきた。



「指示する田代かっこいいー!」

「は?」

「やっぱ実行委員が田代でよかったぜぃ!」



そして振り返ると同時に言われたその言葉には、目を開かざるを得ない。別に、ただ言われた事をまとめてそのまま伝えてるだけなんだが。



「女子達が喜んでたぜぃ、自分達の考えた案が全部採用されてる!って!」

「私の負担を減らしてくれるんだ。使えるものは使う」

「とかつって、輪に入れてない女子の意見も後からちゃんと個人的に聞いとったじゃろー田代やーさーしーいー!」

「だからそれはあくまでも負担を減らすだけだ。口じゃなくて手を動かせ」



両隣から肘でつついてくる2人がなんとも鬱陶しいので、私は立ち上がりその場から去った。ちょうど画用紙もきれていた所だ、教材室に行こう。

未だからかってくる2人の声を無視して教室から出る。一応全体のイメージ図を大まかに書いた紙を片手に持って、足を進める。



「…あ!」

「?」



そして教材室に辿り着き紙を選んでいたら、ふいに入口の方からそんな声が聞こえた。なんだろう、と疑問に思いつつそちらに目を向けると、そこには1人の女の子がいた。2年生か、と上靴の色を見て判断する。テニス部以外に後輩に知り合いはいなかったはずだが、果たして誰だろうか。



「田代先輩…あの」

「…あぁ、あの時のか」



その子が俯かせていた顔を上げた時、ようやく記憶が蘇った。あれだ、去年の海原祭の準備でもここで会った子だ。確かこの子が上っていた脚立にドアから突如入って来たサッカーボールが直撃して、この子が落ちて、それを私が庇ったんだった。あの後病院にお見舞いに来てくれたらしいが、私は爆睡してたから置き手紙だけがあったな。

もうあれも1年前の事か、と1人で勝手に物思いに耽っていると、女の子は唐突に頭を下げ出した。何事。



「本当にあの時はすみませんでした!!結局、改めてお見舞い行こうと思ってた間に先輩退院したから、面と向かって謝れなくて…学校でもなんか罪悪感で話しかけれなくて、」

「もう全然気にして無い。とりあえず頭を上げてくれないか」



私がそう言えば女の子はようやく顔を上げたが、その表情は酷く情けなく今にも泣き出しそうだ。背が低く可愛らしい顔つきをしてるこの子にはなんとも似合わない表情だ、と心底思った。



「似合わないぞ」

「え?」

「そんな表情は。笑ってる方が良い」



だから正直にその事を伝え、気分を落ち着かせてあげる為にその子の頭の上に手を乗せた。これはあの人達からの受け売りだ。勝手にポンポンと手を乗せてくるのは癪だが、不思議とこれをされると落ち着くのだ。

そうすると女の子は私の顔を驚いた表情で凝視してきた。そしてじぃっと見つめられること約30秒程だろうか。



「…先輩、好きです」

「…は?」



告白された。
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