「田代、ちゃんと体を起こしなさい」



田代が実行委員に選ばれたと知った日の翌日、つまり今日。早速放課後に集まりがあるため俺は嫌がる田代を連れて生徒会室に来たのだが、ものの数分後でこいつは机に突っ伏し寝る体勢に入った。これから委員長が話し出すというのに酷な事をする奴だ。だから俺は容赦なく肩を揺さぶり起こした。



「何をやればいいんだ、実行委員なんて」

「実行委員が自ら案を出すという事はあまりない。クラスの要望を紙にまとめ提出し、それを叶えるために雑用やらをやるというのが主な仕事だな」

「雑用…」

「そう嫌な顔をするな。雑用なら部活でも散々やって来てくれただろう」



眉を顰めあからさまに嫌な顔をした田代に、俺はそう言いながら頭に手を乗せた。すると田代は軽く頭を振り払い、そっぽを向き、こう言い放った。



「それは特別だ」

「…そうか」



全く、素直なのかそうでないのか。顔も赤くならなければ表情も変わらない。だが、言葉だけは妙に真っ直ぐで、言われたこっちが思わずくすぐったくなってしまう感覚に陥る。



「お前は、海原祭が楽しみではないのか」

「…楽しみでは、ある。一応」

「なら良かった」



去年は一緒に過ごせなかった分今年は大いに楽しみたいというのは、俺だけではなく全員が思っている事だ。だからこそ委員会もサボらせたくない。去年までは部活があったからクラス展示やこういった委員会の準備時間は限られていたが、今年は違う。子供くさいかもしれないが、放課後遅くまで残って作業をするというのは中々心が浮かれるところがある。そんな中に田代もいれば、さぞかし楽しいだろう。



「切原君が言っていた。私達がいない部活展示などつまらない、と」

「田代は一度もテニス部として展示に携われなかったな。残念だ」

「まぁ、そこまで変わらないだろう」

「それもそうか」



委員長の諸説明を耳に入れつつ、俺達はそんな会話をしていた。そうしていると時間が経つのは早いもので(今日は会議自体も最初だからか短いのだが)、クラス向けのアンケート用紙が配られたのを区切りに解散となった。席を立ち、生徒会室を後にする。



「柳君」

「なんだ?」

「やるからにはちゃんとやるから、迎え頼む」



廊下を歩いているとふいにそんな事を言い出した田代に若干驚き、目線を下にやる。田代は女子の中では平均より少し高いくらいの身長だが俺から見るとやはり小さく、見上げてくる大きな瞳に柄にもなく引き込まれた。…精市の次にデータが取りにくいな、こいつは。

偉いぞ、と言って頭を撫でてやれば、田代は目を細めてほんの少しだけ笑った。今年の海原祭は、今までで1番楽しくなりそうだ。
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