翌日。 あの後、携帯は無事で特に変わった様子も無く、そのまま持ち帰ってきた。晩ご飯も無事に与えられ、お風呂にも入って適当に寝て、朝になって起きて、チャリで登校して、今に至る。 至るのだけれど。 「先輩!!」 何故昨日の少年が私の席に座っているんだ?クラスの皆目が点じゃないか、そんな目で見られたって私が1番状況を把握できていない。しかも少年は私が教室に入るなり席から立ち上がって、尻尾を振り回しているかのような勢いで近寄ってきた。 「俺、1年の切原赤也ッス!」 「そうか。」 「先輩は?」 上目遣いで名前を聞かれるが、なんだか全く意味がわからない。人と関わるのは何かと面倒だから極力避けたいところなのに、先に名前を言われてしまっては教えない訳にはいかない。だから私は小声でフルネームだけを淡々と告げた。すると少年、切原君は効果音がつくくらい顔を綻ばせ、そして 「晴香先輩!!」 「え」 抱きついてきた。私より幾分か小さいくせに力が強い、痛い。 「俺、頑張るッス!ぜってーアイツらぶっ倒してみせるッス!」 「(何のことかさっぱりだが)あ、あぁ、頑張れ。それと苦し」 「だから先輩、見守っててください!」 切実な願いは無残にも遮られ、代わりに彼のそんな願いを突き付けられる。少し視線を下にやれば、腰にべったりと抱きつきながら私を見上げてくる切原君いる。いやだから、苦しい。 「切原君、予鈴が鳴る」 「約束するまでこのままッス!」 「わかった、する、するから」 しまった、つい勢いで言ってしまった。やばい。そう思った時にはもう時既に遅しで、切原君はまた来ます!、という言葉を残して超絶笑顔で去っていった。朝からとんだ災難にぶち当たってしまった、お願いだから放って置いて欲しいのに。 「田代アイツに懐かれとるん?」 「なんだよー、アイツ俺とジャッカルが昨日ラーメン連れてってやった時は態度悪かったのに」 席に着くと仁王君と丸井君に話しかけられたが、特に返す言葉が思いつかないのでそのまま机に突っ伏す。というより、2人は切原君と知り合いなのか?ならばあの暴走を先輩の権限とやらを使って止めて欲しい。私にもその権限はあるが、いちいち行動に移すのは面倒だし第一彼が私のこの願いを聞いてくれるとも思えない。無駄手間はごめんだ。 「田代、流石じゃな」 「俺には全くわかんねー」 「(わからなくて結構)」 むしろわかってほしくない。人に自分のことを詮索されるのはどうも苦手だ。情の掛け合いや無意味な会話から生まれるものなんて何もない、というのは上辺の言葉でただ単にコミュニケーション自体が面倒というのが1番の理由なのだが。 いつもそうだった。誰に嫌われるでもなく、かと言って好かれるでもなく、相手との距離をそれなりに取ることでお互いに苦労しないで過ごせていた。諍いもない、変な干渉もない、自分だけが良ければそれで良かった。 なのに私、これからどうなるんだ?助けを乞う想いでふと見た青空は、腹が立つほどに晴天だった。 |