「あー、食べすぎた」 「全くだ」 「田代は兎も角、精市までそんなに食べるなんて珍しいな」 「完全にこいつらにつられたよね」 賑やかな焼肉も終わり、私達は今それぞれの空間を過ごしている。何をやらかしたのか知らないが、切原君は真田君に追いかけられており、丸井君と桑原君は川に向かって石投げをしており、仁王君と柳生君はジャンケンで負けた為後片付けをしており。残った私と柳君と幸村君は適当に座って適当に話している、といった感じだ。 「シャーベットが食べたい」 「ごめん田代、本当にお前の胃袋ありえない、引く」 「さすがにこれ以上は食べすぎだな」 …願望を口に出しただけなのに引かれるとはどういうことだ。少し理不尽に思った私は、お腹がきつくて苦しがっている幸村君のお腹を軽く叩いた。すると物凄い早さで頭を叩かれた。痛い。代わりに柳君が呆れながらも撫でてくれた。 「良い度胸してるね、もう一発いっとく?」 「精市、あまりいじめると田代はジャッカルの元に逃げるぞ」 「…そうする」 「あ、本当だ逃げちゃった」 これ以上幸村君から攻撃を受けない為に、私は桑原君目がけて走りだした。と同時に、私に向かって走って来た者が1人。 「先輩!これ!!」 「どうしたんだ…って、あ」 「四つ葉のクローバー!」 その1人とは切原君だ。先程まで真田君に追いかけられていたが、今はその真田君もクローバーを探しているのか懸命に地面にへばりついているところから、恐らく言い合いは終了したのだろう。…クローバーか。 「あれから1年か」 「そうっすよー、俺ちゃんと去年のこと覚えてるんすからね!皆で焼肉屋行って、クローバー探して、円陣組んで、食いまくって笑いまくって」 切原君はそう言いながら、私の手にクローバーを握らせて来た。その表情はとても楽しげだが、同時に寂しげでもあった。 「とにかく突っ走ってきました、俺」 「私もだ」 「俺らもだっつーの」 その時、丸井君の声がした。気が付くと皆は私達の周りに集まっていて、仁王君と柳生君もこの様子を見るなり、片付けを中断して走り寄って来た。 「また組んじゃう?円陣」 「へへっ、なんか改めると恥ずかしいっすねー!」 そして幸村君の言葉で私達は円陣を組んだ。去年はこの円陣を見ているだけだったが、今はがっちりと幸村君と切原君に肩を掴まれている。 「今年はお前も一緒だよ」 「…あぁ」 「それじゃあ、掛け声は次期部長に任せようか」 「え!?俺っすか!?」 「頑張るなり」 急に振られた切原君は戸惑い、やがて恥ずかしそうに顔を赤らめた。よほど照れくさいのだろう。しかししばらくすると真剣な顔になり、私達に向き合った。 「王者の名、また復活させます。このままじゃ終わりません。だから…───常勝!」 『立海!!』 そう言い終えると、皆はやはりどこか照れくさそうに笑い合った。 想像していた夏とは違ったが、確かに忘れられない夏になった事には変わりない。これまで私が過ごして来た中で、1番色々な事を経験した夏だった。自分でも知らなかった感情が次々と出てきて、なんだか目まぐるしかった気もする。でも、改めて感じたのは、この人達と一緒に過ごせて良かったという事だ。口には出さないが、心の底からそう思う。 「…ありがとう」 夏が、終わった。 season2 fin. |