「じゃあ今日は俺田代のこと送ってくから、お前らはまた明日ね」

「え?」

「行くよ田代」



しばらく皆と歩いていると、それぞれの帰路に別れる分岐点に辿り着いた。いつもは此処で私1人が違う方向へ行くのだが、今日は幸村君が着いてくるとの事らしい。…何故だ?しかしそんな私の疑問を彼が相手にするはずも無く、皆もわかっているのかそのまま手を振って別れた。だから、何故だ。



「幸村君、何故だ。別に1人で帰れるぞ」

「馬鹿だなぁ、お前が1人で帰れないような奴かって。…俺が一緒にいたいの」



幸村君の行動が突発的なのはいつものことだ、今回も受け流しておくのが1番良いだろう。だから私はそう言った幸村君にそうか、とだけ返事をして、その道のりを淡々と歩き続けた。沈黙が続く。



「田代、ちょっとあそこの公園寄らない?」

「わかった」



すると幸村君は前方にある公園を指差してそう言って来た。子供達はちょうど帰り時で、中を見渡す限り人はいない。もうすぐ陽も沈むし、これから暗くなってくるだろう。そんな中私達はブランコに座り、一息吐いた。誘われて来たものの何も話し出さないから、私は暇潰しにブランコを漕ぎ始めてみた。



「俺、良かったと思ってるよ。ボウヤと戦えて」



刹那。幸村君の凛とした声が響いた。



「確かに、テニスを楽しむ事なんて忘れてたもん。ただ勝ちにしか執着してなくて、何のためにテニスをやってたのか今じゃよくわかんない」



私は漕ぐ事を止め、彼の話に耳を傾けた。チラ、と横目で様子を盗み見るが、その顔は真っ直ぐ前を見据えている。



「お前がいつだか赤也に言ったっていうあの言葉にも救われた。最後まで全力でやれたのは確かだ、あいつらとやる最後のテニスだから絶対に諦めたく無かったし」

「うん」

「でも」



ふと、目の前が暗くなった。何事かと思い顔を上げると、そこにはいつの間にか幸村君が立っていた。彼のせいで太陽が遮られて暗くなったんだ。



「やっぱり試合にも勝って、またお前に俺のガッツポーズ見せてやりたかったよ。で、俺の真似して、お前にもガッツポーズしてほしかった」



───あぁ、なんで。

なんでそんなことを覚えているのだろう。去年の全国大会で幸村君が優勝を決めた時、彼は大きくガッツポーズをした。そしてそれを見て私も小さく真似をした。幸村君は試合が終わった後私に、来年も絶対勝ってみせるから、だからまた俺の真似してガッツポーズして、と言った。

そんな約束を覚えていたのは、私だけだと思っていたのに。



「…やっぱり、私の中での優勝は立海しかない」

「あはは、粋な事言うね。ありがとう」

「幸村君」



色んな事が溢れ出して来て上手く言葉が出せない。死ぬ直前でもないのに走馬灯が頭の中を駆け巡る。



「これからも、着いて行く」



そんないっぱいいっぱいの状態で出せた言葉は、結局その一言だけだった。でも幸村君にはちゃんと伝わったのか、そのまま精一杯抱き締められた。だからそれに応えるように両手を回して彼の背中を叩く、なんていう柄にも無い事をしてみると、小さな嗚咽が聞こえた。それを聞いて、私の頬にも涙が流れた。

お疲れ様。ありがとう。もう無理しないで、もう我慢しないで、もう溜めこまないで。これからも傍にいるからよろしく頼む、幸村君。
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