哀しいのはもうまっぴらだ

「負けちゃったね」



帰り道。日が暮れ、辺りは昼間の騒がしさが嘘のように静まり返っている。歩いている足音だけでも妙にその場に響くほどだから、誰かが呟いたとなればそれはもっと響いて私達の耳に入って来る。ちなみに今呟いたのは幸村君だ。

立海は、全国三連覇を成し遂げることが出来なかった。しかしその割に落ち着いているのは、それが実感できていないのか、自分の満足の行く試合が出来たからなのか。私的には両方だと思うが、皆の本心は皆にしかわからないから断言は出来ない。

そんな中、切原君だけは下を俯いて落ち込んでいる様子を露わにしていた。下を向いていては上手く歩けないことを考慮してか、右手は桑原君、左手は丸井君が引いている。時折嗚咽が聞こえるところから、恐らく泣いているのだろう。



「幸村、…」



真田君は呟いた幸村君に対し何かを言おうとしたが、結局その続きが口に出されることはなかった。



「晴香先輩が、教えてくれたんっす」



と、その時。それまでだんまり状態だった切原君が急にそんなことを言い出した。皆は勿論、名前を出された私も驚いている。教えた?私が?何を?



「あんた達三強を倒せなくて悔しくて、晴香先輩も負けんなって言ってくれたのにその約束も破っちまったって、俺がちょー自分が嫌になってた時、先輩が言ってくれました」



「私は別に、あの老け顔に試合で負けるなという意味で言ったんじゃない」

「自分に負けるな、という意味で言ったんだ」



切原君が嗚咽混じりでいつかの私が言った言葉を言うと、頭の上に手が置かれた。仁王君のものだ。



「晴香先輩、俺達、負けっすか?」



涙で顔がグシャグシャな切原君が私を見ながらそう言うと、全員の視線も私に向いた。なんだか皆よくわからない顔をしている。



「そんなわけないだろう」



こんなに全身で悔しがってる様を見せといて何を言っているんだろう。あんなに最後まで諦めないで戦っておいて、自覚というものがないのだろうか。私は情けない顔をする彼らに対しそう思った。そして私が言葉を放ってから数秒後、頭の上にまた手が乗った。また乗って、また乗って、



「重いんだが」

「おんまえ、ほんっと大好きだわ」

「ピヨッ」

「ありがとな、田代」

「せんぱーい!!」



仁王君と同じように手を乗せて来たのは丸井君と桑原君だった。そして最後に切原君が真っ正面から抱きついて来て、いきなり明るくなった雰囲気に若干戸惑う。どうしたものかと思い前を見ると、柳君、柳生君、真田君、幸村君が優しく微笑んでいた。

きっとこれは一時凌ぎでしか無い気がする。1人1人家に帰れば嫌でも今日の事を思い出して泣きたくなるだろう。でも、それでも、少しでもこの人達が素直に笑えるのなら、私はそれでもいいと思った。
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