この全国大会が始まる前に俺の復帰が間に合った事で、周囲からはたくさん同じ言葉をかけられてきた。俺が復帰したからにはもう大丈夫だ、と。別にそれに関しては俺も自信があったし悪い気はしなかった。…ただし、それは最初だけの話だ。



「どうした?これでもう終わりかい?」



膝を付いて荒く息をするボウヤに向かってそう吐き捨てると、当たり前のように反論してきた。まぁさっきまで記憶喪失だかなんだかになってた割には本調子だと思うけど、あまりにもそれが呆気なさすぎる。

むしろ、記憶喪失だけで済んで良かったじゃないか。

あの時の俺の地獄を知ってるのか。周りの声に囲まれながらリハビリをしていると、例えそれが声援だとしても、全部、責め立てる声に聞こえてくるんだ。早くしろ、早くコートに立て、そして絶対に勝て、って。



「見た所、触覚を失いかけているようだね」



勝利の得られぬ勝負など微塵の価値も無い。病み上がりの体を酷使してリハビリを続けて行くうちに、俺はそんなことを思うようになっていた。

どれだけ冷酷と言われようが、プレイスタイルが以前と変わったと言われようが、勝てるならそれで良かった。勝利だけが俺の全てだった。

───なのに、何故かそういう時に田代の顔を見ると、鏡を見なくてもわかるくらい情けない顔になってしまう。あいつは相変わらず無表情で何考えてるかわからないはずなのに、何故か、凄く、



「幸村君!!」



泣きたくなるんだ。



***



「…今、一体何が…?」



柳生君がそう呟くが、私達の中に返事を出来る者は誰1人いなかった。今までは幸村君が圧倒的だったのに、急に越前君の様子が変わった。五感を全て奪われたのに一体何が起こったのか、私だけではなく恐らくこの会場にいる全員がわからないだろう。それは勿論、幸村君を含め。



「幸村君!!」



その時一瞬、幸村君と目が合った。彼はすぐに逸らしたが、その目は確かに酷く揺れていた。だから私は思わず彼の名前を叫んだ。もう目の前で何が起こっているのかよくわからなくなって、とりあえず応援席から身を乗り出すようにして声を張り上げる。

嫌だ。こんなの嫌だ嫌だ嫌だ



「勝たんかー!!幸村ー!!」

「幸村ブチョーー!!」



同じように身を乗り出している真田君と切原君の声が響く。



「俺さ、すっごい勝ちたいんだよね」



前に2人になった時にそう言った幸村君の言葉を思い出した。あの時の表情は真剣そのもので、柄にもなく見入ってしまった記憶がある。

いつでもそうだった。暴言や毒舌しか吐かないように見えて、本当は誰よりも人の本質を見抜いている。のクセに、自分のことは隠そうとする。器用なのか不器用なのかよくわからなくて、素直じゃなくて意地っ張りで、正直皆の中だったら1番扱いにくいだろう。支えたいのに、弱い所を中々見せてくれないからその隙すらない。辛いと顔に書いてあるのに、それを吐きだそうとしない。困ったし、わからなかったし、寂しかった。でも、



「ゲームアンドマッチ、越前リョーマ!6−4!」



そんな幸村君でも、私達は彼のことが大好きなんだ
 5/5 

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