「田代ー…」

「…暑い」



仁王君の試合が終わり、続けて丸井君と桑原君のダブルスの試合が始まった。最初仁王君にタオルとドリンクを渡した時はそれまでの3人と同様素っ気なかったのだが、少し経ってから彼の前を通りかかるなり、急に後ろから抱きつかれた。そしてそのまま抱きかかえられるように座らされ、今私は仁王君の膝の上にいる。背中は仁王君にべったりと顔をうずめられていて、これが結構な暑さだ。が、背中が段々濡れ、小さな嗚咽が聞こえてくるものだから、離れようにも離れられない。…というのは少し甘やかしすぎか。



「全く…仁王君、観客がたくさんいる前でみっともないですよ」

「やぎゅ、やっぱ俺、おまんとのダブルスが好きじゃああぁあ」



その言葉と共に私は解放され、次は柳生君がターゲットにされた。私と柳生君はそんな彼の姿を見て目を合わせ、笑った。



「気持ちまでお揃いみたいだな、柳生君」

「そうですね、馬鹿らしいことですが」

「お前ら、うるさいよ」



その時。私達の会話に亀裂をいれたのは幸村君で、彼はこっちを見向きもしないでそう言った。確かに試合中にこんな会話をするのはいけなかったかもしれないが、それにしても変だ。



「すまない、幸村君」



しかし、次に試合を控えている彼にストレスを溜めさせるわけにもいかない。だから私は自分の中の疑問を無理矢理殺し、無難な返事をした。幸村君の表情が気になってずっとその広い背中を見ていたが、彼がこっちを振り向くことは無さそうだ。



***



「先輩…っ」



悔しそうな切原君の声が隣で聞こえる。本当は彼に何かしてあげられればいいのだが、膝から崩れるように倒れ込んだ丸井君の姿が目に焼き付いて離れない。名古屋星徳の時とは違う、これは本物の負けだ。



「お疲れ様、丸井君、桑原君」



とりあえずボーッと突っ立っているわけにもいかないので私はお決まりの言葉を彼らに投げかけるが、2人は私が手渡したタオルを頭に被せるなり俯いて、そのままだった。

此処までで2勝2敗、次の試合で全てが決まる。しかしどうしたものか、青学の次の選手、越前君が中々来ない。…記憶喪失?になったらしい。もしかしてそんな理由でこの大会は幕を閉じるのか、と考えたら、越前君には申し訳ないが若干の憤りを感じる。だって、それじゃあ何のために此処までやってきたかわからない。

そしてそれは幸村君も同じなのか、ベンチに腕を組んだ状態で座ったまま一向に動こうとしない。誰もが今後の展開に息を飲んでいたその時───元気な声と共に、小柄な体が立海応援席から飛び出してコートに舞い降りた。



「なぁなぁ立海の大将さん!コシマエが来るまで、ワイと勝負せぇへんかー?」



その正体は紛れも無く金ちゃんだった。予想だにしていなかった展開にそれを見ていた者全員が目を瞠るが、そんなことを金ちゃんが気にするはずも無く、係員に体を抑えながら止められても、幸村君と試合すると駄々をこね始めた。



「やろうか、遠山君」



金ちゃんの想いが幸村君に伝わったかどうかはいまいちわからない。しかし、幸村君がそう答えたことにより金ちゃんはとても喜び、物凄い勢いでコートへ入って行った。

この時に金ちゃんを止めてあげていればと後悔したのは、それからすぐのことだった。
 4/5 

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