―――そして、全国大会は開幕した。



「手ごたえ無いッスねー」

「まぁそう言ってやるなよ」



昨日は六里ヶ丘を制し、今日はたった今兜を制したところだ。どちらの試合も相手に1ゲームも取らせずにストレート勝ちし、それは凄いことなのだが切原君はどうもそれがつまらないようで、口を尖らせながら愚痴を溢した。そんな彼を優しくなだめるのはやはり桑原君だ。しかし、そう言う彼の表情もまた不満そうである。



「全国大会っつってもたかが知れてるぜぃ」

「おーおー余裕じゃのう豚さん」

「誰が豚だっつーの!」

「ねぇ」



仁王君と丸井君が取っ組み合いをしてふざけあっている中、一際冷淡な声が突如この場に響いた。ギギギ、という効果音がつくくらいにゆっくりと首を後ろに向けると、そこにはいやに笑顔を浮かべている幸村君の姿が。待て、怖い。



「俺昨日言ったよね?初戦とはいえ皆動きが悪すぎるよ、って。2回戦の今日でお前らなんか変わったところあった?勝つのは当たり前なんだ、あんまり内容の薄い試合しないでもらえるかな」

「…す、すまない幸村」



これまでの空気が一変し、幸村君のその言葉に今日試合をした切原君、柳生君、仁王君、真田君は一気に肩を縮こませた。彼の前じゃ真田君の威厳もからっきしだ。だが無理もない、それほど幸村君は誰よりも完全勝利を求めているのだ。



「…一雨来るな」



冷たい雰囲気が漂うな、と思っていたら、ふいに柳君が空を見上げて呟いた。それとほぼ同時にポツポツと雨が降ってきて、次第に強くなって。一気に土砂降りとなり、周りの人達は忙しなく屋根がある場所に避難し始めた。勿論私達も例外なくバスに向かって走り始める。冷たい雰囲気の原因は、どうやらこれも関係していたらしい。

上に着ていたジャージをせめてもの気休めに頭に乗せながら走っていると、前方にコートから出てくる集団が見えた。…あのジャージは、



「田代、何処へ行く」

「先に行っててほしい、すぐに追いつくから」



皆は曲がり角を曲がって行ってしまったが、私は彼の元へ行く為に柳君にそう伝えて、1人そのまま真っ直ぐ走った。バシャバシャと荒々しく走る足音に気付いたのか、彼、景吾君は足を止め、此方に目を向けた。瞬間、驚いたように目は見開かれる。



「晴香?」

「姿が見えたから来た」

「フン、お前らしい理由だな」



こんな土砂降りの中足止めをさせてしまっている景吾君の部活仲間には申し訳ないが、彼の姿を目に入れてそのままスルーすることは私には出来なかった。だからそのことをそのまま伝えると、景吾君はもう一度軽く笑った後、濡れている私の髪に指を絡めてきた。



「こんなに濡れてまで、風邪引いてもしらねぇぞ」

「そんなヤワな体じゃない」

「まぁ、確かにそうだな。でも万が一のことがある、早く行け」

「…わかった」



早く行け、という割に私の髪を梳くことをやめない景吾君の手をやんわりと離して、とりあえず彼と距離をとる。



「明日、試合が終わったら見に来る」

「あぁ。しっかりその目に焼き付けな」



距離をとったことにより他の人の表情がよく見えるのだが、全員が私のことを凝視していて若干驚いた。だがそれはこの人達も同じで、景吾君と私の顔を交互に見るなり信じられないといったような表情を浮かべている。一体そんなに何がおかしいのか。



「…ずーーっと気になってたんやけど。自分らどういう関係なん?」

「お前確か、関東大会の時もいたよな」



すると、眼鏡をかけている人と帽子を被っている人が、恐る恐るといった様子で話しかけてきた。どういう関係、と言われても。



「まぁ、こいつは特別だ」



なんて返答すればいいのか困って景吾君に視線を向けると、彼の口からはそんな言葉が飛び出た。それに他の人は更に驚いた顔をする。と、その時。遠くから微かだが切原君が私の名前を叫ぶ声が聞こえた。少し長居しすぎたか。



「だ、そうだ。じゃあ私は行く、健闘を祈ってる」

「あぁ」



そして私はジャージを再び被り直し、立海の皆がいる方へ走り出した。



「…不思議な子やな。跡部もあの子の前になるとおかしいけど」

「うるせーよ」



あぁ、早く雨が止めばいいのに。
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