響いた音は乾きすぎて

全国大会前日。

皆は学校で練習に励んでいる最中で、私は何をしているかというと、ここに来て足りない備品が発生した為買い出しに出ている。しかもその備品達はそこらの小さい店では売っていない為、わざわざバスで遠出までしている。出発する時に1人で歩かせるのは不安だから、と何人かが着いて来ようとしたが、勿論全力で拒否して振り切ってきた。…しかし、今思えばそれは間違いだったのかもしれない。



「…なぜ此処に…」



大型スポーツショップまで無事到着して、目当ての物を買い揃えたところまでは良かった。駄目だったのは、ここら辺の土地感覚がまともに無い癖に近道をしようなどという考えを持ったところだろう。その結果、案の定私は迷った。目の前に大きく聳えるのはスタジアム―――決勝戦で使う会場だ。

…まぁ、下見だと思えばいいか。来てしまったものは仕方ないし、と無理矢理自分の中で事態をまとめる。当たり前だが、大会はまだ始まっていないから人気はほとんど無い。だから私は特に何の躊躇いもなく入口に足を踏み入れた。



「(…話し声?)」



階段を上がり、扉を開ける為に手をかけた…のだが、中から話し声が聞こえてきた。声の調子からして従業員では無さそうだ。ていうか、結構聞き覚えのある声なんだが幻聴だろうか。コシマエー、とかなんとか言っているな…と、私がこの声の主が誰だったか頭の中で考えていたら、ふいに手をかけている扉が開いた。



「…あれ、アンタ立海のマネージャーじゃん」

「あ」



すると驚くことに、そこから出てきたのは関東大会で真田君を制した青学ルーキー、越前リョーマ君だった。いやでも、コシマエーと叫んでいた声はこの子のものじゃない。ということはまだ誰か中にいるのか?まぁそれを確かめるのは後にして、とりあえずこのまま通り過ぎて中に入るのもなんだから軽く挨拶をしてみる。すると越前君は帽子を軽く下げてウイッス、と返してきた。



「次はこんな所に寝に来たわけ?」

「いや、迷った」

「…どうやったら迷って此処に辿り着くの」



呆れたように溜息を吐く越前君。私だって、この土地に慣れてさえいれば迷いなんかしない。でも東京なんて特別な用事が無い限りわざわざ来たりしないから仕方ないだろう。面倒臭いし。というか寝に来た、とは…あ、そうだ、越前君と初めて会ったのは青学の外にある階段だった。私が切原君のジャージを被って寝ていたところを彼に目撃されたんだったな、確か。



「まぁ、どうせまたアンタのところとは当たるでしょ」

「当たり前だ」

「その時はよろしく」



そう言って口角を上げ、生意気そうに微笑む越前君。そのまま私達は数秒見つめ合ったが、どちらからともなく視線を逸らしお互い足を進めた。話には聞いていたし実際この目でも確認していたが、本当にとんでもないルーキーだ。



「んんんーーっ!?ちょ、皆ー!!あれ晴香やない!?晴香ー!!」



…そして、とんでもないルーキーがもう1人。越前君と入れ替わるように次は私が会場内に入ると、向かいの観客席に久々に見る人達がいた。四天宝寺中だ。大きく手を振ってくる金ちゃんに対し片手を挙げると、他の皆はこっちに来い、といって手招きをしてきた。別に拒否する理由もないし、大人しく歩いて向かい側まで行く。



「晴香っ!!」

「うぐっ」

「久しぶりやなぁ」



そして私が彼らの元に辿り着くなり、金ちゃんが思いっきり抱き着いてきた。この勢いのある抱き着きは今までに何度も受けてきたが中々慣れない。そんなわけで腹部の痛みに耐えていると、今度は蔵ノ介の声がした。だから私はそうだな、と返事をする。



「なんで1人なん?しかも立海って神奈川やなかったっけ?」

「下見すか?」

「…あぁ」

「迷ったんね」



続いて謙也と光にそんな疑問を投げかけられた。正直に答えようと思ったが、先程越前君に盛大な溜息を吐かれたからここは少しごまかしてみる、が、一瞬で千里に見抜かれた。ケチ。



「ちゃんと帰れるんー?アタシ達送っていくわよー?」

「これ以上迷ったら大変やしなぁ!」

「うむ」



すると、なんと小春がそんな有難い提案をして来てくれた。しかもそれに皆も賛成してくれる。これ以上1人で歩いて迷ったら収集がつかなくなっていたから助かった。私は思わぬ助けが入ったことに安堵し、彼らの言葉に甘えることにした。



「ワイはようコシマエと試合したいわー!!」

「せやな、楽しみやな」



…あぁ、聞き覚えのある声は金ちゃんだったのか。皆と帰り道を歩いている中、最初に浮かんだ疑問がようやく解けて、それと同時に相変わらずの皆の賑やかさを見て、私は思わず微笑んだ。
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