そして目的地に到着したのか、2人の手が俺から離れた。田代はまだ背中に乗ったままだから、そのまま解放された両手で支えてやる。さっき下駄箱で目隠しされたまま靴履き変えられたし、概ね部室だろうというのはなんとなくわかる。 「よし、開けるぜぃ!」 ブン太が部室のドアを開けて、仁王に背中を押されて中に入る。そこでようやく田代の手が俺の目から離れて、 『おかえりなさい!!』 盛大なクラッカーとこいつらの満面の笑みと共に、俺は出迎えられた。幸村、幸村君、精市、ブチョ、というそれぞれの呼び方を前置きに。壁に貼られてる垂れ幕は真田の字だろう、達筆で幸村復帰祝賀会、とでかでかと書かれている。装飾もよく見るといびつなものがほとんどだけど見てるだけで賑やかで、机の上に置かれているケーキも普通の店では売ってないくらいでかくて豪勢だ。ケーキの他にも、普段の真田なら怒りそうなお菓子がたくさん並べられている。 「ぶにゃあー」 「お、プーちゃんもお祝いに来たぜよ」 「荒らしちゃだめっすよ!プーちゃん!」 開けっぱなしのドアから入って来たのは写メでも見た猫で、外にいる平部員達は俺と目が合うなり口々に退院おめでとうございます!、やらおかえりなさい!、やらと、やっぱり満面の笑みで言って来た。前を見ても後ろを見てもどこを見ても全員笑顔で、アホ面だ。 「昨日頑張って用意したんだ」 「だろうね。お前ら不器用なくせによくやったよ」 「お気に召されましたか?幸村君」 「あの垂れ幕は俺が書いたのだぞ!」 相変わらずノートを手に持ってる蓮二、いつもより笑顔が豪快で紳士らしくない柳生、妙に得意気な顔の真田。 「ケーキのデコレーション、全員でやったんだぜ」 「そうそう、フルーツたっぷりで絶対美味しいっす!」 「ちなみにスポンジは俺担当だから味は保証するぜぃ!」 「ちーっとクリームの泡立てが甘かったかのう」 はしゃぐ赤也の頭に手を乗せながら喋るジャッカル、今にも飛び跳ねそうな勢いではしゃぐ赤也、しっかりとVサインをするブン太、クリームに顔を近付ける仁王。 「おかえり、幸村君」 そして、俺の背中に未だ乗っている田代。 「あぁ、ただいま!」 普段は負ける気なんて微塵もしないけど、こういう時は本当にこいつらには敵わないと思う。またこの部室に戻ってこられて本当に良かった、またこいつらとテニスが出来るようになって本当に良かった。今改めてそう思う。 「にゃっ!」 「…ふふ」 前足をポン、と俺の足に乗せて来たプーちゃんにもおかえり、と言われたような気がして、俺は顔をくしゃくしゃにして笑った。それと同時に、背中に乗っている田代の腕に、さっきよりも更に力がこもった。 |