───と思ったのも束の間だった。



「随分と疲れた顔をしているな」

「あぁ、蓮二か…流石の俺も疲れたよ」



昼休みはなんとかあいつらと過ごすことが出来たものの、それ以外の時間は女子達に追い掛け回されて酷かった。復帰祝いだかでお菓子を貰ったけど、正直貰いすぎてもういらない。いくらウチにお菓子ならなんでも食べる奴がいるとしても、渡される度に礼を言う、という作業を延々と繰り返さなきゃいけない俺の立場も考えてほしい。



「後1時間授業終われば部活だし我慢するけど」

「俺のデータでは、この状況は後1週間ほど続くと予想されているが」

「あはは、勘弁して」



こんなのが1週間?1日でこのザマだっていうのにやってられるはずないだろそんな長く。だから俺が、そのデータどうにかしてでも覆してよ、と抗議したら、蓮二は困った風に笑って、それを遂行出来る確率はほぼ0%だ、と返して来た。役立たずー!



***



「(終わった…)」



そして、1日の最後の授業が終わった。それと同時に女子から話しかけられる前に早々とテニスバッグを抱えて、教室から出る。

久しぶりの練習はどんなメニューでしごいてやろうかな。後輩達は成長してるのかな。コート整備はちゃんとされてるかな。あ、そういえば田代がスポドリの粉末変えたとか言ってたな、ちゃんと美味しいの用意してるんだろうなあいつ。そんな考え事を飽きもせずしつつ、早く着きたい一心で早歩きで階段に向かっていた───ら。



「っ!?」

「こちら田代、幸村君確保」

「こちら仁王、幸村誘導」

「こちら丸井、同じく幸村君誘導!」

「ちょ、は!?」



急に背中に衝撃が走って、視界が真っ暗になった。そして、そのまま両手を引っ張られ歩かされる。…いやこれどういう状況?上手く整理がつかないけれど、とりあえずお前ら何やってんの?と問いかければ、



「左手は俺じゃき」

「右手は俺!」

「目は私だ」

「目が1番謎なんだけど」



なんともお門違いな答えが返って来た。わざわざ目隠しされる意味が分からないし、しかも田代俺の背中におぶさってるし。器用に腹の前で足絡ませてバランスとってね、本当制服で何やってんだって。せめて俺の両手が空いてれば普通のおんぶの状態に出来るけど、それも仁王と丸井が両手を塞いでるせいで出来ない。俺何処に連れて行かれるわけ?周りから変な黄色い悲鳴聞こえまくってうざいし。



「なんで俺が野郎2人に手引っ張られないといけないのかな?」

「ゆ、誘導役だからさ。許して幸村君!」



ブン太の焦った声には溜息で返す。田代も田代で、いくら軽いとはいえずり落ちそうになるのを持ち堪える為に、時々俺に思いっ切り全体重をかけて体勢を直すのはいただけない。さすがに膝から崩れ落ちそうになる。あの、俺一応病み上がりなんだけど?



「折角帰って来たのに全然話せてない」

「…田代?」

「こうでもしないとまた他の女子に群がられるだろう」

「そーそ、休み時間毎回C組行っても幸村君の姿見えねぇんだもん」

「昼休みも飯食ってすぐ解散だったしのう」

「何お前ら、やきもち?」



俺がそこまで言うと、全員の手に込める力がキュ、と強くなった。田代に至っては首に絡めてる腕の力まで強くなったから若干苦しい。…ま、でも。



「ほんっと馬鹿だね、お前ら」



悪くはない、かな。
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