ずっと笑っていてくれますか

「幸村君おかえり!!」

「キャーー!!幸村くーーん!!!」

「大人気だな幸村君。キャー」

「ふざけんな田代、お前そんな事言うキャラじゃないだろ」



記念すべき俺の復帰日に女子達が騒ぐのは容易に予想出来てたけど、流石にここまでうるさいのは予想外で、なんかもううるさすぎて若干腹立ってきた。でもまぁ、迎え入れられて嫌な気はしないから一応手は振っとく。それに、復帰日の登校中に偶然田代と会えたし、大体のことは多目に見る事にした。



「やっとパジャマから抜け出せたな」

「おかげさまで。誰かさんが地面に顔面強打しただけあるよ」

「…それは言わない約束だろう」



不貞腐れた田代の前髪を手で思いっ切りあげると、そこにはまだあの傷の名残がある。あーあー女のクセに顔に傷作って馬鹿だなぁこいつ、折角丸くて綺麗なおデコなのに勿体無い。と呆れる反面、なんだか思い出し笑いしそうになった自分が憎い。



「ていうかお前眉毛整えてる?だいぶフサフサだよ」

「ナチュラル派だ」

「えいっ」

「抜くな!」



俺の手をパシン!、と払い落す田代の表情はいつもより豊かな気がする。久しぶりだなーこの馬鹿みたいな会話。そんな風に知らず知らずの間に自分がこの空間を楽しんでる事を自覚して、若干気恥ずかしくなった。



「幸村くううううん!!!!」

「「ぐえっ」」



…でも、油断してた。俺と田代はまるで蛙が潰れたような声を出し、苦し紛れに俺達の背中に乗ってる人物を見上げると、案の定そこにはブン太がいた。まだダイエット成功してないのかよこいつ。



「丸井君、苦しい、潰れる、重い」

「うおおおお制服の幸村君と田代のコンビ久しぶりいいい!!滾る!!」

「ブン太、田代が本気で潰れるよ」



重い事には変わりないけど、俺はブン太1人くらいなら普通に支えられる。でも田代は別だ、こんなもやしみたいな体でブン太に乗っかられたら本気で折れる。その事にようやく気付いたのかそれともただ単に気が済んだだけなのか、俺達の背中はようやく軽くなった。



「あれそういえば田代、お前チャリは?」

「今仁王君に貸してる」

「ほおー、そうなんグエッ!!」

「おーおー危ないぜよ豚ちゃーん」

「てんめっ、ふざけんな!!」

「ブチョーー!!!」

「はいはいわかったから」



一難去ってまた一難ってやつだろうか。とは言っても、今被害受けたのはブン太だけだから別にいいんだけど。あ、状況を説明すると、自転車に乗った仁王が後ろからブン太を轢いたという感じだ。で、更に荷台には赤也が乗ってて、俺の姿を見るなり思いっ切り抱きついてきた。あぁもう全くうるさいなぁ、そう思いながら未だ抱きついてる赤也の相手を適当にしてると、ふと視線を感じた。



「何?」

「楽しそうだな、幸村君」



視線の先にいたのは田代で、問いかけるなりそんな答えが返って来た。俺は腕の中にいる赤也と言い合いをしてるブン太と仁王をもう一度見て、そうかもしれないね、と呟き、田代はそれを聞いて満足そうに笑った。なんだかんだ、中々良い切り出しみたいだ。
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