「かんせーーいっ!!」



私の睡眠は赤也の大声により妨げられた。若干驚き思わず飛び上がったが、室内の光景に更に驚くことになる。入ってきた時はただ汚かっただけの部屋が、多少雑な部分もあるが綺麗に細かく装飾されていた。1番目立つ部分には垂れ幕がかかっており、…文字は読めないが。とにかく何か祝い事をする時の雰囲気が漂っている。



「これ絶対幸村君喜ぶぜぃ!」

「精市のことだから素直には言わないだろうが、喜ぶに違いない」

「楽しみなりー」

「全ては幸村のためだ!しかし、通常の部活時間を返上して準備したのだ、これから練習を行うぞ!」

「普通順序逆じゃないか」



田代のそのツッコミが正論なのかは私には理解しかねるが、真田がそういうと周りはやはり、といったように苦笑した。そして各々ロッカーから荷物を取り出し、私を一撫でした後外へ出て行く。



「プーちゃん、もう今日はこれ以上構ってあげられない。また明日な」

「にゃー」



最後に残ったのは田代で、私を抱き上げるとそのまま一緒に外へ出た。外へ出ると私は地面に降ろされ、田代は違う方向に駆けて行く。そんな田代と他の人達の後ろ姿を見て、またこの部屋に入り込もうと私は人知れず決めた。



***



「…久しぶり、だな」



入院中にクリーニングに出されていた制服を、なんとなく部屋の鏡の前で着てみる。やっぱり筋肉が落ちて痩せたせいか心なしか大きくなった気もするけど、まぁ時期に元通りになるだろ。

リハビリ期間中は、一言で表すなら過酷そのものだった。運動どころか思うように体が動かないことから始まって、筋肉を使うのにどれだけ痛い思いをしたか。…それもあいつらが頻繁に見舞いに来てくれたことでだいぶ和らいだけど。正直言うと、今テニスコートに立ってすぐに全力を出すことは出来ないと思う。でも、全国まで時間が無い。だからやるしかない。



「(待たせたね)」



あの日真田に言われた待ちくたびれた、という言葉に、初めて今まで自分がどれだけ先走っていたかを痛感させられた。真田のくせに生意気だよね。でも、待ってくれてる奴らがいるってことがどれだけ恵まれてるかを知ることもできたから、今回は感謝する。

いよいよ明日から本格的にまた登校出来る。勉強面は蓮二とか柳生がノートをコピーしたりしてくれてたから多分大丈夫だと思うけど、そういう不安な面を抜きにしてただ単純に明日が楽しみだ。遠足前の小学生か、ってね。

入院中にあいつらから送られてきた写メを見返して、俺はそのまま眠りについた。にしてもこの猫、太ってるなぁ。
 3/3 

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