「く、っそ…っ」



目が痛い。涙が乾いたせいで頬も痛い。壁を殴り続けている手も痛い。

あんな言葉を吐きたかったんじゃない、そう、これはただの嫉妬だ。“次”が必ずあるあいつらが羨ましかった。



「すまない、幸村…だが、次の全国大会では必ず!」



そう言った真田の気持ちが本物だったのも勿論わかった。でも、堪え切れなかったんだ。あの日、医者がいた部屋の前をたまたま通った日から、俺の中の何かが一気に崩れた。



「幸村君か…あの体じゃもうテニスは無理だろう」



目の前が真っ白になった。その癖あの医者は手術が終わった後、これからリハビリ頑張ろう、そうしたらきっとまたテニスも出来るようになるから、なんて嘘臭い笑顔と一緒に堂々と本当に嘘を吐いた。俺はそれに吐き気がした。でも、それでもはい、と返事をしてしまったのは、やっぱり何処かにまだ希望を持っているからだった。



「…意味分かんないな」



泣くことに疲れて、フラリとベッドから立ち上がる。医者には絶対安静と言われたけど、今ベッドで横たわったらそのまま死にそうな気がして怖かった。

看護士に見つからないように淡々と廊下を歩く。そうして辿り着いたのは職員用の出入り口で、俺はなんの躊躇いも無くそこから外に出た。

殺風景な場所だった。

地面も立ちはだかっている塀も全て薄汚いコンクリートで出来ていて、病院内の清潔感とはまるでかけ離れてる。加えて、職員用の中でも使用頻度が少ない出入り口なのか人気はまるでない。来る気配もない。



「(馬鹿じゃん、俺)」



そこまで実感して俺は力が抜けたようにその場に座り込んだ。そして、自分が馬鹿だってことを痛いくらいに自覚する。だって、あいつらをあんな風に追い返しておいて、今たまらなくあいつらに会いたいんだ。特にあの無愛想な顔の女に会いたいことなんて、手術直前から思っていたことなのに。たるんどる、ってね。

さっきの真田のあんな顔、多分初めて見た。他の奴らには何言われても構わず怒鳴り続ける癖に、相変わらず俺には弱い。あんな、…泣きそうな顔してさ。

外で待ってたあいつらはどんな顔してたんだろ。多分赤也は泣いてただろうね。それをジャッカルあたりが慰めて、それから…───それから。



「…ふ、っ…」



さっきあれだけ泣いたのに、まだこんなに涙が出てくる。あいつらのせいだ。俺だって早くお前達のところに戻りたいのに、なんで、なんで俺だけ



「幸村君っ!!」



───え。
 3/5 

bkm main home

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -