「───……だ!」

「…あ」



睡魔の誘いに乗ること約15分くらいだろうか。私は耳に入ってきた新担任の声で目を覚ました。くそう、安眠妨害なんてあんまりだ。しかも多分今雰囲気的に名前言った直後だろうな、何も聞いていなかった。とはいえ、そんな知りたい訳でもないから支障は無いのだが。

一応クラス全体を見渡してみると、銀髪君と(あれ何かデジャヴ?)赤髪君の2人組が最初に目に入った。赤髪君は隣だし、銀髪君は赤髪君の前の席だし、髪色も含めて自然と目に入ってしまう。その時に一瞬赤髪君と目が合ったが特に用件は無いから、私は再度全体を見渡した。



「おいおい、シカトはねぇだろぃ」



が、そうしていると隣、すなわち赤髪君からそんな言葉が発された。シカト?誰かにされたのだろうか。気の毒に。完全に他人事気分で頬杖をついて、窓の外を見る。



「ちょ、またシカト!?」

「ブンやめんしゃい、嫌われとるんじゃ」



外良い天気だなぁ。日なたぼっこしたい。あぁ、そうだ日焼け止め買わないと、忘れてた。



「おーーーいっ!!」



どこの薬局に寄ろうかなぁなんて考えてたら、赤髪君からご丁寧に耳に手をつけてくるというオプション付きで話しかけられた、というより叫ばれた。耳がキンキンする。そしてそれに反応して新担任が「うるさいぞ、丸井!」と軽く怒鳴った。そうかこの人は丸井君というのか、にしても何の用だ?疑問符を沢山浮かべた顔で首を傾げる。



「どうしました丸井君」

「どうしました、って…散々シカトしといてそれはねぇだろぃ」



はて、シカトとはどういうことだ?した覚えはないが。でも正論を言うとそれはそれでまた話が長引いて面倒くさそうだから、ごめん、とだけ言っておく。すると丸井君とやらはたちまち不満そうな顔で銀髪君と話し始めた。コイツつまんない、って聞こえてるんだが。まぁいっか。



「(早く帰りたい)」

「よし、じゃあこれから新入生歓迎会だ!廊下に並べ!」



新担任の掛け声で生徒達はだるそうに動き出す。去年私達が入学してきたときも先輩達はこんな気持ちだったんだろう、無理もないが。所詮歓迎会なんて寝る為のものだし、こんなことならタイミング窺ってどっかにサボりに行けばよかったと全力で後悔する。あー、椅子重い。



「…お前さん」

「…ん?私か?」

「無気力すぎじゃなか?」



適当に女子列の1番後ろに並ぶと、男子列の1番前にいるさっきの銀髪君に話しかけられた。その言葉をいわれたのは今に始まったことじゃない。むしろ今更だ。



「よく言われるが」

「ん、だって今時の女子中学生にはありえんテンションだし」

「どうでもいいのでは?」



私自身特に気にしてないし、それを他人の銀髪君が気にすることもないだろう。だからその意をそのまま伝えると、銀髪君は一瞬目を見開いた後、楽しそうに口角をあげて笑った。



「お前さん名前は?」

「へ?あぁ、田代」

「俺は仁王。よろしく、田代」

「あー…うん」



これから話すことは別にそんなに無さそうだが、よろしくと言ってくれてるのだから一応よろしくしておこう。

それから列が進み出したから椅子を引きずりながら歩いていると、その事を違うクラスの先生から注意された。だるいなぁ。

体育館に着くと案の定そこはザワついていて、耳に入る雑音が不快感を煽らせる。こちらは眠たいというのに。指定された場所に並んで椅子に座れば、そこからは睡魔と一緒にお出かけの時間だ。さっきも出かけたけど、もう1回。私は出かける準備として椅子に浅く腰掛け、腕を組み、頭を俯かせるという姿勢を取った。さぁお待たせ睡…



「寝ちゃだめ。」



魔、と思ったのに、後ろから髪をクイッと引っ張られた。痛い。何事。でも反応するのも面倒だからそのままもう一度目を閉じる。



「だーーめーー」

「…何がしたいんだ?」

「かまって」



しかし再び、次は肩を前後に揺さぶられる。これにはさすがに耐えられなかったので後ろを振り向くと、可愛く舌を出してそんなお願いをしてくる仁王君の姿があった。大変腹立だしい。



「私は寝たいんだ」

「俺が暇になる」

「丸井君はどうした」

「アイツは後ろの方。会の途中に菓子食わんか見張られとる」

「気の毒だな」



自業自得だが。というよりも、なんで彼の空いた穴を私が埋めなければならないんだ。もう色々面倒臭い。



「おやすみ」

「えー、遊ぼうぜよ」

「やだ」



あまりにもしつこいので呆れて総シカトを決め込むと、仁王君は諦めたのか何もしてこなくなった。しばらくして、吹奏楽のシンバルの音を最初に軽快な演奏が体育館内に響いた。驚いた。その演奏と共に1年生の入場です、というアナウンスが流れる。

更にザワつく体育館内、やる気のない手拍子音、そして仁王君の未だに駄々をこねている言葉をバックに、私はようやく睡魔とのお出かけを出発することができた。正直、五月蝿くて仕方ない。



***



「お疲れさん!今日はこれで終わりだ、気をつけて───…」



担任が言葉を言い終わる前に鞄をひったくるように持ち、教室から出る。

歓迎会が終わってからの授業は苦痛そのものだった。新学期最初の授業はほとんどがオリエンテーションで、いわゆるただの睡眠時間なのだ。いくら暇さえあれば寝ている私でも、授業が終わる15時まで寝っぱなしというのは中々無理があった。だから無意味に仁王君に話しかけられたりとこれまた面倒な思いをしなければならなかったし、本当に散々だ。丸井君は話してないから知らない。



「(帰って何しよう)」



珍しくお気に入りの録画してたドラマでも見るか、なんて考えながらチャリで坂道を下る。帰り道家から学校までは大体20分くらいだけど、それは近道を通ったらの話だ。その近道というのは途中でキツイ上り坂を上らなければならない。勿論そんな無駄な体力の消耗をしたくない私は、少し遠回りしてでも下り坂しかない楽な道を選ぶ。そうすると大体要する時間は30分ほどだ。あぁ、どこでもドアが本当にあればいいのに。

一定の速度で走るチャリ。このチャリに羽でも生えてくれないかな、と本気で思った私は馬鹿なのだろうか。…いや、流石に馬鹿だ。
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