「俺の勝ち…だね」



切原君の手が、離れた。



「ゲームセット!!ウォンバイ青学越前、7−5!!青学関東制覇!!」



どよめきと歓声が一気に会場を包む。青学ではルーキーが盛大に胴上げをされていて、部長代理は感極まって泣いていて。



「王者立海…それは昨年までのことだ」



皆は応援席から降りて、ベンチ付近にいる真田君の所に集まる。立ち尽くしている私の左手を切原君、右手を丸井君が引いた。



「今年はチャレンジャーとして全国に乗り込む」



円陣を組む。丸井君が2回私の肩をポンポン、と叩いた。



「無論、王者を奪回するために!!」

『イエッサー!!』



果たして掛け声の中に自分の声は含まれていたのか、それすらもわからない。…あぁそうか、混乱してるのか。

立海は、負けたんだ。



「すまん、田代」



正式な表彰も終わり帰り支度をしていた時、仁王君がふいに私の頭を抱えた。それを合図に皆から頭を撫でられる。こんなの、ありか。



「勝って欲しかった」

「ズバッと言いすぎだろぃ」

「幸村君と一緒に勝ちたかった」



自分がどれだけこの人達にとって苦痛な発言をしているかはよくわかっている。でも、生憎こういう時にどういう気遣いをすればいいかなんてわからないんだ。それなら素直に言った方が良い気がする、だから言う。



「幸村君は大丈夫ですよ」

「うむ、あいつは問題ないだろう」



柳生君はおろか、真田君にまで慰められるなんて。情けない、情けないけど



「凄かった、全員」

「…田代に言われるとありがたみがあるのぅ」

「先輩っ」



本音は伝えたい。でも上手く伝わらなくてイラつく。そんな時満面の笑みで話しかけてきたのは切原君だった。



「次は、幸村ブチョと全員で───優勝するッス!」



いつからこんなにこの人達に弱くなったんだろう。思わず涙腺が緩みそうになったのをグッと堪えて、下唇を強く噛む。しかし、その行動で泣きそうなことに気付かれてしまったのか、代わりに切原君がまたボロボロと涙をこぼし始めた。さっきの笑顔何処に行った。



「赤也、大声で泣くんじゃない」

「うぐっ…ぐやじいぃぃい」

「全くお前は…」



柳君が苦笑すれば更に泣き、桑原君がなだめ。そんな光景を見て私達は軽く笑った。



「(幸村君、)」



試合結果に浸る暇が無いというのは、この場合逆にありがたいのかもしれない。これから私達は急いで幸村君の病院に行くことになっている。そうなると自然と脳内は試合のことから幸村君のことへシフトチェンジされる(決して試合中に幸村君のことを全く考えていなかったわけではない)。

そうなると、どうしたものか。心臓が変に鳴る。



「田代、大丈夫じゃから」

「…あぁ」



脳内も気持ちもぐちゃぐちゃだ。2つのことがいっぺんに混ざり合って大変なことになってる。でもとりあえず今は、幸村君に会いたい気持ちが1番強いことがわかった。



→あとがき
 4/5 

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