おかしいとは思っていた。必ず良くなるから、と医者は笑顔で力説するけど、体はまるで良くならなくて、むしろ悪化する一方で。



「幸村君か…」



自分の体のことは自分がよく知っているはずなのに、なぜか俺以上に医者は俺の体を理解している。それは医者という立場上当たり前なのかもしれないけど、それなら、教えてくれてもいいのに。秘密にするってことはそういうことなんだろう、ってずっと言い聞かせてはいたけど、やっぱりどっかで認めたくなくて。



「あの体じゃ、もうテニスは無理だろう」



きっと田代は、俺が何を想っていたかなんて当たり前のように察しているんだろう。でも、言い方は悪いけど、言葉に出したところで田代が病気を治せるわけではない。田代だけじゃなくて、あいつらも、家族も、俺の大事な人達は俺の病気を治せない。わかってる、わかってた、…わかって、ない、なかった。

全身から力が抜けて行くのを嫌でも感じて、その場に崩れ落ちた。頭に浮かんだのはあいつらの笑顔で、それが酷く、憎く思えた。



***



午後10時。予想通り切原君から電話は来たが、その口調はいつもとは違い至極真面目なものだった。聞いて下さいよ晴香先輩ー!、といつもなら泣きついてくるのに、今日は違った。



「俺、負けちまいました。超悔しいッス、ありえないッス。だから、もっと強くなるんス」



主にそれだけを宣言して、切原君は電話を切った。誰に負けたのか、それだけ悔しい相手なのか、不明な点はいくつもあったけどあえて聞かなかった。ただ一言、そうか、と返した。

やっぱり私は、何があってもあの人達を応援したい。例え残酷なプレイスタイルになろうと、言いたいことを言葉に出してくれなかろうと、私が応援したいのはあの人達なんだ。だから私は着いて行くことしかできないんだ。

決勝は目前。去年見た幸村君のガッツポーズを頭の中で思い出して、私は眠りについた。
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