「(こんな時に…)」



準決勝を終えて数日後。今日は放課後皆で幸村君の病院にお見舞いに行く予定なのだが、運悪く私だけ先生に居残りを命ぜられたおかげで出遅れてしまった。全く、居眠りくらいで課題を出すなんて、と自業自得なのに悪態をついてみる。



「…ん?」



金井総合病院には自転車で急げばすぐに着いた。駐輪場に自転車を置いていざ入口へ足を運んでいたら、皆が急ぎ足で病院から出て行く姿が目に入った。仁王君、柳君、真田君、柳生君…あれ、切原君と丸井君と桑原君がいない。ていうか何処に行くんだ、まだ私は顔出してないのに。

ま、いいや。何があったのかは知らないが、恐らく病室に行けば幸村君が何か知っているだろう。だから私は急ぐ彼らの後は追わず、堂々と病院内に足を踏み入れた。



「あ、来た来た。田代ー」

「いた」

「来るの遅いよ」



院内に入ると、受付の傍にある売店に幸村君はいた。暇潰し用か雑誌を買ったようだ。それから一緒にエレベーターに乗り、彼の病室では無く屋上へ行く。



「真田達と会った?」

「走っている姿は見かけたが、向こうは私に気付いていなかった。何があったんだ?」

「赤也がリバーサイドテニスクラブでなんかやらかしたみたいだよ。真田の鉄拳が入るだろうね」

「へぇ」

「興味無さそー」



興味が無いわけではないが、切原君の事だ。今日の夜あたりにでも嘆きの電話を入れてくるだろう、そっちの処置の方が面倒くさい。

ベンチに座って特に何かを喋るわけでもなく、ただなんとなく過ごしていると、ふいに幸村君は読んでいた雑誌を置いて立ち上がった。そしてフェンスに歩み寄り、私に背中を向ける。



「手術、決勝の日だってさ」

「…そうか」

「俺、…」



それっきり幸村君は俯き、何も喋らなくなった。私はそんな彼の様子を不審に思い、ゆっくり背後に歩み寄ってみた。



「ゆきむ、っ」



背中を軽くつついて彼の名前を呼んでみようと思ったが、その前に思いっ切り抱きしめられる。幸村君は泣いていない。震えてもいない。彼の胸に顔全部が押し付けられて上手く息が出来ないけど、退けようとは思わない。



「俺、お、れ」

「うん」



───結局それからずっとそうしていても、幸村君がそれ以上の言葉を吐くことはなかった。言葉にならない、というのはこういうことなのかもしれない。

私が帰る時も幸村君は何も言わずに、笑顔でじゃあね、と言っただけだった。手を振ってみると振り返してくれた。ポケットに入っていた溶けかけのチョコレートをあげると、見舞いの品としてはふさわしくないね、と笑いながら受け取ってくれた。そんなやり取りを交わして確かにわかった、幸村君がずっと感じている感情が。

怖い、んだ。
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