走り続けたらどこに着くの

「───…3勝2敗、1ノーゲームにより、青学の勝利!!」



景吾君は言っていた。俺達は必ず勝つ、だからのちにお前らとも勝負することになるだろう、って。



「へえー、青学の勝ちっすか」

「また新たなデータが増えたな」

「行くぞ、赤也、蓮二、田代」



目の前の光景から目が離せない。ありがとうございました、と勢いよく礼をする青学と氷帝。最後に試合をしていた氷帝の2年生は泣きじゃくっていて、それを周りは慰めていて、でも景吾君だけは1人で佇んでいた。

関東大会初戦、氷帝は負けた。



「晴香先輩?どうしたんすか?」

「む?何か気になることでもあったのか?」



わざわざ3人に着いてこの会場に足を運んだ理由は紛れもなく景吾君にあって、確かに本当に素晴らしい試合を見ることが出来た。でも、まさか、まさか



「…先に戻っててほしい」

「えー!?なんでっすかー!?」

「落とし物なら俺達も一緒に探すぞ!」

「赤也も弦一郎もうるさい。田代、先に歩いてるから後から来なさい」

「わかった、ありがとう柳君」



私の発言になんとも面倒くさい返答をしてくる2人とは対称的に、柳君はちゃんと察してくれたのかそう言って2人を引っ張って連れて行ってくれた。そうして3人の背中が小さくなるのを見届けた後の私の足先は、自然と景吾君に向かう。何かを言いたいとかそういうわけではないが、ただただ自然に足が動く。だから素直にそれに従う。



「あれ?自分、この前ストテニにおった…」

「景吾君がどこにいるか、教えてくれないか」

「おめえ誰?あとべの何ー?」

「こんな時にまでなんだっつーんだよ」



景吾君がいると思って出向いた氷帝サイドの観客席には景吾君以外の人達しかいなくて、しかもこの人達は私を怪訝な目で見ている。長髪眼鏡の人はなんとなくこの前ストリートテニス場にいた気もするが、金髪の人と帽子の人は見たことがない。恐らくこの前はいなかったんだろう。なんてことは、どうでもいい。



「…急に申し訳なかった、自分で探す」

「晴香か?」



とりあえず探しに出ようと踵を返したその先には、まさに目的の人物である景吾君が私を見下ろしていた。数秒目が合い、やがて景吾君は口を開く。



「お前は勝てよ」



その言葉と同時に、私は一瞬景吾君に片手で頭を抱えられ、何かを言おうと口を開きかけた時にはもう景吾君の背中は小さくなっていた。

試合に負けるのは、何も悪いことじゃない。だけど、やっぱり悔しい。物凄く悔しい。立海テニス部のマネージャーが言うに相応しい言葉ではないことは重々承知してる。それでも、景吾君の言葉と暖かさがいやに体に残って、ほんの少しだけ目頭が熱くなった。全力って、勝負って、こういうことなんだ。
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