「…弦一郎が見たらなんて言うか」



昼休み。晴香に部活のことで用事があった為柳はB組に出向いたが、そこには晴香だけでなく仁王と丸井の姿も無かった。お馴染みの3人が揃いも揃っていないとなれば考えられるのは1つ、サボりだ。その方程式が頭の中ですぐに浮かび上がった柳は、足先をサボりの定番スポットである屋上に定めた。

そして屋上に辿り着いてみれば案の定3人と、更に切原までもがいたのだが、彼らの無防備な姿にはさすがに苦笑がもれたようだ。



「いつまで寝ているつもりだ、もう昼だぞ」



この様子だと恐らく随分前から寝ていたのだろう、そう思い柳は4人の傍にしゃがみこみながら話しかけるが、返ってきたのは多種多様の寝息のみだった。それに呆れるように溜息を吐くが、何故か無理矢理起こす気にもなれないのも事実で。結局起こすことを諦めた柳は、置き手紙を手早く書きその場に置いた。そしてもう一度4人の寝顔をそれぞれ見、最後に晴香で視線を留める。



「…気持ち良くなさそうな枕だな」



晴香の頭の下には仁王が勝手に入れたのか、彼の腕が置いてあった。所謂腕枕というやつである。一般的には甘い雰囲気にもなりえるそのシチュエーションも晴香にかかると全て淡泊なものに変化するのか、彼女は相変わらず無防備に眠りについている。むしろうっすらと口を開けており色気など皆無だ。しかし、柳はそんな彼女の寝顔を優しい表情で見つめた。



「(最近色々と重労働を任せていたからな)」



だからと言ってサボりが許されるわけではない。しかし、ここ最近の忙しさにも晴香は文句1つ言わずに黙々と仕事をやってのけていた。そんな彼女の行動を見ているからこそ、こういう面では甘くなってしまう。とんだ親馬鹿になったものだな、と彼女の頭を撫でながら柳は自嘲の笑みをもらした。



「…んぐぅう…っ!!」

「ふがっ、…!」



そして柳は、折角晴香の寝顔を見ているのにも関わらず耳に入ってくる丸井と切原のイビキを鬱陶しく感じ、とうとう2人の鼻をつまみだした。数秒その状態でいて、悶えだしたところで手を放す。そんな子供じみているとも言える行為を何度か繰り返すが、一向に2人は起きる気配がない。先程は切原のドアの開閉の音だけで起きた丸井も、今はよほど深い眠りに入ってるのだろうか。



「(そうだ)」



丸井と切原で遊ぶのにも飽きた柳は、ある提案を思いついた。思いつくなりすぐに立ち上がり、携帯のカメラモードを起動する。そしてパシャ、とシャッターを切った後、満足そうに微笑んでからその場から立ち去った。



***



「アホ面だなぁ」



蓮二から急に届いたメールに本文はなくて、画像だけが添付されてあった。なんだろうと思って開いてみると、そこには4人の寝顔があった。多分屋上かな?思わずこっちが噴き出しちゃうくらい4人とも幸せそうに寝てて、しばらくその画像を見つめる。



「…頼んだからね」



もうすぐ関東大会が始まる。俺はそれに出ることはおろか、見に行くことすらできない。でも、あいつらならやれるって信じてる。今はこんなアホ面浮かべてるとしても、きっとあいつらなら大丈夫。

俺は蓮二に、4人ともサボりの罰としてグラウンド走らせておいて、と返信してから、薬の副作用で怠くなってきた体を休めるためにベッドに横になった。…頑張ってほしい、なのに、そうしてからあいつらのことを考えると何故か自分が酷く情けなく思えて、無理矢理思考を遮断した。
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