「上手くやってんのか」

「まぁそれなりに」



越前との会話に区切りをつけ、帰ろうと歩き出した矢先に起こった出来事だった。階段からすぐの場所に突っ立ってたのは紛れもなく晴香で、その予想外の人物の登場に思わず固まっちまったのは失態だったな。

で、今は晴香を立海に送り届ける為にさっき俺が呼んだ車の中にいる。こっちまで来なきゃ買えない物があったから来たみてぇだが、ンなもん俺が取り寄せれば良い話だろ。こんな無防備な奴1人で出歩かせんなっつーの、と心の中で立海の奴らに毒を吐く。



「もうすぐ関東大会か」

「あぁ、立海だって当たり前に出場すんだろ」

「まぁな。忙しくなりそうだ」

「…そういえば」



幸村はどうなんだ。

俺がそこで話題を切り替えると、晴香はピタ、と動きを止めた後に、それまで前を見据えていた顔をゆっくりと俺に向けてきた。

いつだか俺がなんとなくコイツに電話をかけた時、いつも以上に口数が少ない時があった。異変にすぐ気付いた俺が何があったのか問い詰めると、こいつはただ一言、幸村君が辛そうだ、と呟いた。あの時の情けなくて潰れそうな声は、今でもはっきり覚えている。



「どうせお前のことだ、あいつらの前では強がってんだろ」

「別に。それに景吾君だって言っただろう、挫けそうな時は来いよなんて言わない、とことん強くいろ、って」



晴香の目は真っ直ぐに俺を見据えていて、その目に揺るぎは微塵も見られない。だからこそ、あの時この目が不安に包まれていたのであろうことを思うと、どうしようもねぇ気持ちになる。



「来るなとは言ってねえだろ、自分から伝えるのも大事なことだ。俺の助けを待ってるようじゃまだまだだな」

「待ってない」

「じゃあなんであん時、あいつらの前みたく強がらずに情けねえ声出したんだよ」

「…無意識だ」

「バーカ、大人しくに甘えとけ」

「うるさい猿山の大将」



それまで合わせていた目をふいに反らし、窓に体ごと向けた晴香。おい、と肩を掴み揺らせば、無言で手を叩かれた。…なんだこいつ。若干腹が立った俺はもう一度、今度は強めに肩を掴み、無理矢理こっちを向かせた。



「おい、?」

「…なんだ」

「なんだ、じゃねえよ。その台詞そっくり返してやるよなんだよその赤い顔。お前でも照れることあんだな」

「うるさい猿」

「ただの猿にすんな大将にしろ」



こっちを向いた晴香の顔はいつもより赤く、さっきの会話のせいで照れたことに気付く。俺が手を離せばまたすぐに体ごとそっぽを向いたが、もう肩は掴まない。

素直じゃねえし意地っ張りだし他の女とは比べもんにならねえくらい強いが、どうやらこいつも甘えたくなる時があるらしい。それに気付いてもらえたことが嬉しかったようだな、俺のインサイトなめてんじゃねえぞ。



「もう一度言っとくが、俺からは言わねえからな。次来る時こそは自分で言うんだな」

「…ん」



相変わらず窓の方を見ながら素っ気なくそう言う晴香だが、窓に反射して映った顔が嬉しそうだったのを、俺は見逃さなかった。



***



そうして立海に着き。



「おい、こいつ1人にさせんじゃねえぞ」

「アンタに言われたくないッス!!俺だって先輩達が止めなければ絶対着いていったのに…!」

「田代おかえりー!待ってたぜぃ!」

「寂しかったぜよ!田代ー!」



誰もかれも、結局は似た者同士なんだなと思った。
 3/3 

bkm main home

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -