「(こんなもんか)」



以前仁王君と一緒に戯れた、立海に住み着いている猫のプーちゃんが校門付近に現れたおかげで予定していた時間は若干過ぎてしまったが、なんとか迷うことなくスポーツショップに到着することができた。目的の物も買い終え、後はまた元来た道を戻るだけだ。

…だけだ、と思ったが、駅へ行くなら元来た道よりも此処を通り抜けて行ったほうが早い気がする。ちなみに此処、というのは今私の目の前にあるアリーナテニスコートのことだ。

そう思い立てば楽な道へ行くのは当たり前のことであり、私は淡々と階段を上った。中々荷物が多いおかげで少し辛い、というかだるい。



「―――…、そこの猿山の大将、俺と試合やろうよ」

「(猿山?)」



だらけながらも上った先には勿論テニスコートがあったのだが、それが目に入ると同時に私の耳にはそんな言葉が入ってきた。猿山?大将?試合?テニスコートで何を賭けた試合をしているんだこの人達は、と思いながらチラ、とそこに視線をやる。



「…あ」

「焦るなよ」

「逃げんの?」



あれは、あの貫禄は間違いなく景吾君だ。それに、景吾君の話し相手の帽子を被っている小柄な男の子も、前に切原君と青学に行った時に話した気がする。景吾君の周りには同じジャージを着た見るからにキャラが濃そうな人達が何人かいて、類は友を呼ぶとはこういうことなんだな、と1人無駄に感心した。



「関東大会で直々に倒してやる。青学全員、完膚なきまでにな!行くぞ樺…」

「久しぶり」



そんなことを思いながら彼らのやりとりを傍観していると、立ち上がってこの場を去ろうとした景吾君がようやく私に気付いた。だからそう声をかけてみる。目を見開き驚いている景吾君に、周りの人達が不思議な目を向ける。



「…晴香!?」

「そうだが」

「アンタ、立海の…」

「君は青学で会った振りだな」

「何平然としてんだよ!何でお前がここにいる!まさか迷子か!?」



そこまで驚くことでもないのにいつまでも言葉を発さないから、私はその間青学の子と会話を交わした。するとようやく我に返ったのか私の元にズンズンと歩いて来て、肩をがっしり掴みながらそんなことを言い出した景吾君。なんでこうも私の周りには変な所で過保護な人が多いんだろう。



「あかん、跡部がご乱心や」

「俺あんな跡部さん初めて見ました…」

「おい跡部ー、誰だよそいつ?」



わらわらと物珍しそうに寄ってくる景吾君の仲間達。赤髪の人がそのぱっちりした目を私に向けながらそう言うと、景吾君はなんでもねえ、と何故か言葉を濁した。そして私の腕をむんずと掴み(ついでにさりげなく荷物を持ってくれた)、またずんずんと歩き出す。状況が読めない。



「跡部ー、どこ行くねんー」

「コイツを送ってくる。お前らは先帰ってろ」

「ふふっ、やるねー」

「ウス」



だから、過保護だって。
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