俺様の融通性

「すみません、こちらの商品は今在庫切れでして…本店なら恐らくあると思うんですが、在庫問い合わせしますか?」

「その本店は何処にあるんですか?」

「ええと、東京の───…」



店員と少し話をしてから店を出れば、缶ジュースを飲んでいる丸井君が店の駐車場に座り込んでいた。そして私の姿を見つけるなり空き缶であろうそれを近くのゴミ箱に投げ捨て、どうだった?、と問いかけられる。



「此処にもなかった。明日東京に行く」

「うわーマジかよぃ。めんどいな、ってかつーことは明日田代部活出ねえの?」

「一応早く帰ってくるようにはするが、時間が過ぎる可能性もある」



説明が遅れたが、今私達は部活帰りにスポーツショップに訪れている。目的は勿論部活の備品を買う為なのだが、残念なことにこの店にもその必要な備品は置いていなかった(ちなみにこの店で3軒目だ)。日も落ち、外は既に薄暗い。だから私は今日ではなく明日もう一度行くことにし、今は丸井君と共に帰路に着いている。

しかし、本店が東京とはこれまた面倒臭い。在庫の確認も予約も出来たから行かなければならないのだが、正直かなり億劫だ。そんな私の心情を読みとったのか、丸井君は頭の上に手を乗せてきた。



「帰って来るまで待ってっかんな!急いで帰ってこいよ」

「…あぁ」



全く、どれだけ無駄な事が好きなんだこの人は。でも、そんな無駄だらけの人に少しだけ、本当に少しだけ感謝したのは秘密だ。



***



「田代、地図だ」

「ありがとう柳君」

「本当におひとりで大丈夫ですか?知らない人には着いていっては行けませんよ?」

「特に柳生みたいな紳士面しとる奴には要注意じゃ、こういう奴に限って危ないなり!」

「わかった」

「ちょっと仁王君!?何ふきこんでるんですか貴方は!!田代さんもわからなくていいです!」



翌日。出かける為の身支度をしてから部室を出ると、そこにはどうしたことか、かなり心配そうな顔をした皆が立っていた。それから一斉に投げかけられる諸注意に、小学生じゃないんだが、と呆れた感想が脳内によぎる。



「何かあったらすぐに連絡するのだぞ!いいか、すぐにだぞ!?」

「真田君は携帯を使いこなせていないから意味無いだろう」

「晴香先輩が行くなら俺も行くぅううぅ!!」

「駄々をこねるな切原君」

「気をつけてな、本当に」

「昨日言った通り、待ってっから早く帰ってこいよ!」

「あぁ、ありがとう2人とも。じゃあ行ってきます」



未だ何か過保護的なことを叫んでいる人は何人かいるが、それを全部聞いていたらキリがないのでさっさと足を進める。果たしてあの人達はちゃんと自分の練習に集中してくれるのか、それだけを不安に思いながら私は柳君から受け取った丁寧な地図通りの道を歩き始めた。
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