「ほんでそこにケチャップを…て、そげんいらんばい」 「小春小春!!2人でこのヨガやろうやぁー!」 「千里、玉葱が目にしみる」 「先輩らー、銀さん来ましたよーて謙也さん何そのゲーム、俺もやる」 「我慢ったい。それ切ったら次は鶏肉!」 「…自分らよくこの環境で料理出来んなあ」 材料を買い終えウチに戻ると、最初はそれこそ全員料理に興味津々だったんやけどそのうち飽きて、今は各々が好き勝手やっとる。でも、そんな中でも千歳と晴香だけはキッチンから離れずに真面目に料理を続けとる。こないうるさい中よう出来るなあ、と思いながら、俺は2人の後ろ姿をダイニングの椅子に座って眺めとった。 「蔵ノ介は料理しないのか」 「んー、それなりやな。簡単なやつなら出来るで」 「成程。千里はなんでこんなに手際が良いんだ?」 「妹がいるたい。昔からよくあれ作ってこれ作ってって、コキ使われとった」 「成程」 ジュージューと香ばしい匂いが鼻を刺激する。2人は今オムライスを作ってんねんけど、色んな種類の料理を作るために1回に作る量は少な目にしとるみたいや。別に少な目にせんくてもあいつらなら全部食い尽くしそうやけど、食費のことも考えてっちゅーことで。 「晴香さーん千歳せんぱーい、まーだー」 「危ないぞ光」 そうしていよいよ最後の仕上げ、薄っぺらく焼いた卵をチキンライスに乗せとる時。ふいに財前が晴香の背後に立って、そのまま晴香の肩に顎を乗せながら喋り始めた。え、こいつこないなキャラやったっけ?晴香が全く動揺しとらんのは想定の範囲内として、財前が甘えるなんてレアやん。写メっとこ。 「ちょ、部長なんで写メ撮っとるんすか。カシャて聞こえましたよ今」 「財前が甘えるてレアやな思て」 「…光は切原君みたいだ」 「はい?」 そん時、急に素っ頓狂な事を言い出した晴香に俺達は文字通り目を丸くして驚いた。切原君て…あの立海の、やねんな?晴香、前にメールでテニス部のマネージャーになった言うてたし。そういえばあん時のあいつらの騒ぎようは凄まじかったなあ、これから大会会場で会えるー!いうて。て、話それた。 切原君の事はそこまで知らへんけど、風の噂を聞く限りクールな財前とは似ても似つかへんはず。それなのに、どないしたんやろこの子。そう思てとりあえず話の続きを待っていると、晴香は淡々とした様子で口を開いた。 「甘え上手な所が似てる。切原君はもっと我が侭でうるさいが」 「随分懐かれとるんすね」 「それはよくわからないが。1品目出来たぞ」 「上出来ばい」 ふーん、甘え上手ねえ。そんなんこいつとは無縁思てたけど、さっきの見る限り案外そうかもしれへんな。 まぁその話は置いといて、テーブルの真ん中には大皿に盛りつけられた巨大オムライス(ちゅーてもこの人数のこと考えたら少な目やけど)がどん、と置かれた。嗅ぎ付けてきたんかリビングにおった奴らもわらわらと集まってきて、一気にキッチンの人口密度は急上昇する。それを見て俺は、なんか物が壊れる前に全員をもっかいリビングに戻した。 「料理は人からの評価が1番アテになるったい。試食はあいつらに任せて、俺達はまた違うの作り始めるけん」 「…わかった」 「そげん不満そうな顔せんでー、大体晴香ちょくちょくつまみ食いしとったとね」 ギャーギャーと騒ぐあいつらの元に行く前に聞こえた会話に、なんやなんだかんだ仲良くやっとるやん、と人しれず胸を撫で下ろす。ほな俺達は次に出てくる料理待っとこー。 「あ、蔵ノ介、ケチャップ忘れてた」 「おぉ、堪忍な」 巨大オムライスと人数分のスプーンを持ってリビングに向かっとったら、後ろから晴香がとことこと着いてきた。で、そう言うなり手にしとったケチャップを卵の上にかけ始める。 「はい、出来た。じゃあまた待ってて」 「…ん、了解や」 晴香がその無表情とは真逆にいびつな字体でケチャップで書いたのは、「してんほーじ」ちゅー適当なもんで。でも、その適当さが晴香らしくて俺はまた笑った。 |