ハングリー・ハングリー

「晴香が料理なんて嬉しい!やっと女の子らしくなったのね、ほらほらさっさと作るわよ!あ、ちょっと待って、そこはこうやって…」



この前幸村君に言われた通り、早速料理を教えてもらおうと思いお母さんにその事を頼んだら、なぜか異常に興奮されてしまった。面倒臭い事この上ない。分量くらい自分で測れるのに、いちいち後ろから抱くように手に手を当てて操作してくるお母さんは、まぁ暑ぐるしい上に邪魔臭い。子供か私は。



「(…やめよう)」



立海でも丸井君など料理に長けている人は何人かいるが、あの人達に教わるとなると必然的に全員着いてくることになるだろう。それはとても避けたい、料理どころではなくなる。

となると、だ。



「…あ」

「ん?どうしたの晴香、どこがわからないの?言ってご覧なさい、手取り足取り教えるわよ!」



あの人がいるじゃないか。



***



「あら晴香!久しぶりー!」

「あぁ」



結局お母さんがほとんど手をかけたハンバーグを完成させ、それを完食し、部屋に戻り。そうするなり私は携帯を手に取り例のあの人、即ち小春に電話をかけた。久々に聞くその相変わらず上擦った声に若干の懐かしさを感じる。中2の夏にお父さんに連れられて蔵ノ介の家に行った以来、四天の人達とはたまにメールや電話などが来ても会ってはいなかった。



「今週の日曜、暇か」

「日曜?うん、部活もあらへんし暇やで!どないしたん?大阪来るん?」

「小春、料理を教えて欲しい」



話を戻そう。

お母さんでもなく、立海の人達でもなく、私の知り合いであと料理が出来そうな人といえば、頭の中には小春しか浮かんでこなかった(知り合いが少ないのもあるが)。夏に会った時、女の私より美容関係のことに詳しかったのが印象的だからだ。だから今こうして頼んでいる訳である。



「料理ねぇー、まぁ出来ないこともないわよ!でもどっちかっていうとアタシは美容専門やからぁー」

「無理か?」

「あっ!料理なら千歳がおるわ!」

「ちとせ?」



その時、小春の口から聞いたことがない名前が発された。なんでも、3年になってから転入してきてテニス部に入ったという人らしい。3年になってからなら私が知らないのも当たり前だ。でも、初対面の人に料理を教えてもらうなんて図々しくはないか。私がそんな類の言葉を言うと、小春はなーんも気にする必要あらへんよ!、と気さくに笑い飛ばした。



「ほな、日曜13時に駅前でなぁ!皆に言っとくわー!」

「あぁ、ありがとう」



それから少し談笑(といっても小春の話を一方的に聞くだけだったが)し、最後に約束を取り付け電話を切った。

大阪までは特急列車で行けばそう遠くないはずだし、折角部活もオフなのだから息抜きも必要だろう。…あ、息抜きなら家で寝るのが1番か。まぁ久しぶりということに免じて今回は外出するとしよう。…でもそういえば、皆に言っとく、って、結局四天も全員着いてくるのか。後になって気付いた問題には苦笑せざるを得なかったが、とりあえず全部久しぶりということに免じて流すことにした。じゃなきゃやってられない。
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