「やる気なんて全くなさそうなのにしっかり仕事もこなしてるし、なぜか先輩達皆に好かれてるし、女子達の視線なんて完全無視だし、どうすれば傷つくんですか」

「生憎少しのことで傷つくタチでもないんだ」



こんなに細い体をしているのに、この人は先輩達からの信頼とかたくさんのものを一身に受けてる。

それが不思議で、腹が立って、たまらない。私の方がテニスの知識もサポートの知識も知ってるのに、なんで先輩達はこの人を選んだの?



「意地を張ってないで全部本音で言ってみたらどうだ」

「っ…」

「あの人達に言うつもりはない。私と君との問題だ、隠さなくていい」

「…」

「だから、話せ」



ずっと見てきた。テニスが出来なくなってからも、強豪テニス部と呼ばれる先輩達の姿を見てると凄く熱い想いがこみ上げた。大会会場には毎回足を運んで、入学したら絶対この人達の輪の中に入りたい、って。



「……かった、」

「ん?」

「羨まし、かった」



先輩達の中に好きな人がいるとか、そんなくだらない理由じゃない。ただ自分の好きなテニスで輝いてる先輩達みたく私もなりたかった。でも、最終面接で私の意見は通らなかった。



「本当は、わかってたのかもしれません」

「何がだ」

「先輩達が貴方を選んだ理由」



最初はそれこそ納得いかなかった。でも、様子を見ていくうちにあぁ、だから先輩達はこの人を選んだんだな、っていうのを感じる自分がいて、それを認めたくない自分がいて



「私は、君や他の女子生徒に何を言われようがやめる気はない」

「…でしょうね」

「君の気持ちを無駄にしないように、とかそういう理由でこれから更に頑張っていくつもりもない」

「…」

「全てはあの人達と、自分のためだ」



この人には、私とは比べものにならないくらいの覚悟がある。人を妬んで、羨んでいる私とは違って、自分の中の芯を貫いてる。



「でも、ありがとう」

「え?」

「そんなにあの人達を大切に想ってくれて。変な奴らばっかだが、きっと喜ぶ」

「でも、」

「これからは普通に応援してやってくれ。私を睨むために部活を見に来るんじゃなくて、あの人達を応援するために」

「っ…」

「きっと、喜ぶ」



そういうとこの人は、これまで見たことがないような笑顔を浮かべた。それは先輩達が喜んでる姿を想像しての表情なんだろう。

あぁ、だめだ



「負けました」

「ん?」

「田代先輩には、勝てないです」

「なんの勝負だったんだこれは」

「あはは天然って厄介ですね」



そして私は教室へ戻るために音楽室のドアに手をかける。…最後に一言、言っておかなくちゃ。

私はその一言を言ったあとすぐに走ってそこを出たから田代先輩の反応はわかんなかったけど、優しく笑ったような気がした。



「お礼はドアじゃなくて人に向かって言うものだぞ」



また、夢中になれるものを見つけよう。その時は、たくさんの覚悟を用意しておかなくちゃ。
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