最近、苛立ちが収まらない。 この苛立ちが始まったのは、仁王君に注意を促されたあの日の翌日からだ。マネージャーの最終試験まで残っていた1年生、名前は倉持さん、というらしい(柳君情報)。その倉持さんはそれはもう執拗に私に色々な事をしてきた。 廊下で通りすがれば暴言を吐かれ、部活中は他のギャラリー達と私を見ながらコソコソ話し合い、そして今日はなんと上靴をチョークの粉まみれにされた。朝靴箱を開けた瞬間の溜息は恐らく人生最大と言えるくらいに深く、大きかったであろう。犯人は誰、と書き置きしてあったわけではないが、そんなの無くとも想像がつく。 「田代ー、上靴乾いたかー?」 「もう少し。丸井君菓子よこせ」 「お、おう」 「それにしてもこげん事ようやるのう…しかも1年生が」 「やり方が汚い。こんな子供染みた真似をする奴が今でもいることに驚きだ」 「田代、超早口になってるぜぃ」 「うるさい」 私がそう言えば丸井君は田代怖いー!、と言ってちょうど教室に入って来た桑原君に飛びついて行った。完全なる八つ当たりだというのは重々承知している。しかし、腹が立つものは仕方ない。 窓の外で上靴同士をパンパン、と叩き合わせ、ふつふつと煮えたぎってくる怒りをなんとか収めようと努める。そうしていると、背中に緩やかな重みが圧し掛かった。 「大丈夫じゃ田代、俺達がついとる」 「君達には関係ない、私とあの子の問題だ」 「まぁまぁ、俺達にだって出来る事あるだろ?」 「無い。むしろさせない。無駄な手出しはしないでくれ」 桑原君にまでこんな物言いをしてしまうなんて、きっと自分でも実感していないくらい私は苛立っているのだろう。 でも、この言葉に嘘は無い。私が決めた事だ、全部私が片付ける。この人達のうちの誰かが何かを言って無理矢理収めるくらいなら、私の口から放った言葉で倉持さんを黙らせる。 「…あ、田代。次音楽だぜぃ」 「よし行くぞ」 「ちょ、待ちんしゃい!」 好都合だ、この怒りを本人にぶつけるチャンスじゃないか。だから私は焦る2人(桑原君はもう戻ったようだ、どうやら丸井君に伝言をしに来ただけらしい)を置いて、1人廊下を突き進んだ。 「おや、田代さ…あら?」 「田代!挨拶ぐらいせんか!」 ちょうどA組に戻ろうとしていた2人に話しかけられたが、当たり前のように無視する。音楽室へ行く途中の階段で柳君に遭遇し、キレている確率100%、と呟かれたが、それも無視。 「…いた」 そして、ようやく目の前に標的を発見した。 |